放課後アクスタ部(部員二名)

 日曜の午後、龍牙がやってきた。
 うちに来るのは初めてだから、駅まで迎えに行った。

(良く考えたら、俺らって友達になったばっかだよな)

 家に呼ぶのは、どうなんだろうか。
 急にドキドキしてきた。

「透馬の家に行くとか、かなりドキドキしている」

 呟いた龍牙の顔が緊張している。
 多分、二人とも同じような顔をしている。
 そう思ったらおかしくて、俺の緊張が解れた。

「今日休みだから皆居るけど、ちゃんと話してあるから大丈夫だから」

 見た目はヤンキーっぽいけどいい奴だと力説しているから、大丈夫なはずだ。
 俺は玄関の扉を開けた。

 ガチャリ、と開いた扉の向こうに、妹の美兎がいた。
 美兎が、じっと龍牙を見詰めた。

「あの……こんにちは」

 龍牙が困った感じで挨拶した。
 美兎が、じりっと一歩下がった。

「ママー! お兄ちゃんがイケメンの彼氏連れてきたー!」

 美兎が走り去っていった。

「違う! 彼氏じゃない、友達!」

 思いっきり訂正しながら、二階に向かう。

「なんか、ごめんな」
「妹、何歳?」
「中一、十三歳」
「なる。そういうお年頃だね」

 そんな話をしながら、俺に部屋に入る。
 すぐに母さんがお菓子やジュースを持ってきた。

「いらっしゃい、平野君。さっきは美兎が、ごめんなさいね」
「いえ、大丈夫です。あの、これ、母さんから。皆さんで召し上がってください」

 龍牙が紙袋を母さんに渡した。
 菓子折りみたいだ。

「まぁ、ご丁寧にありがとう。お母さんにも、よろしく伝えてね」
「はい」

 龍牙が母さんに向かって、ぺこりと頭を下げた。

「十分くらいで準備できるから、二人で工場に来なさいって、お父さんが」
「うん、わかった」

 母さんが、龍牙をチラチラと眺めながら、名残惜しそうに出て行った。
 
「本当にイケメンねぇ。彼氏だったら、どうしましょ」
「でしょ、でしょ! お兄ちゃん、やるぅ」

 廊下で話す美兎と母さんの声が丸聞こえだ。

「……マジで、ごめん」

 いたたまれなくて謝ることしかできない。

「別にいいよ。それよりさ、ポスターってどこまで進んだ?」
「そう、それ。送ってもらった構図三種類、ラフ描いてみたんだ」

 俺はスケブを捲った。

「今回はアナログ?」

 龍牙が不思議そうに首を傾げる。

「いや、俺さ。割とアナログ多いのよ。ラフとか下書きまではスケブで、取り込んで仕上げはデジタルとか普通にする」
「そうなんだ。俺もやってみようかな」
「龍牙って、全部デジタル派?」

 龍牙が頷いた。

「感覚が違うから、慣れるまで微妙って思うかもだけど、慣れると楽しいよ。細かい線の描き分けとか、指先で覚えられるっつーか」
「やる。スケブ買うとこからやる」
「マジ? そんじゃ、余ってるのあげるよ」

 画材一式を入れている道具箱をガサゴソと漁る。

「いっぱいあるから、はい」
「いいの?」
「うん、試しに使ってみなよ。合わないと思ったらデジタルに戻せばいいし」
「……ありがと」

 龍牙がまた感動した目をしている。
 スケブ一冊くらいで大袈裟だ。

「透馬、そろそろ工場に行ってね」

 階段の下から母さんの声がした。

「はーい。龍牙、行こう。ポスターはアクキーを作ってからだ」
「わかった。よ、よし」

 龍牙が胸に手を当てて深呼吸した。

「どうしたの? 緊張してんの?」
「お父さんに会うし、アクキーできるし、緊張してる」
「なんだよ、それ。マジで緊張し過ぎ。早く行こう」

 龍牙の手を握って、部屋を出る。
 この時の俺は、特に深くなんか考えていなくて。
 友達の家族とアクキーに緊張している、ただそれだけだと思っていた。