放課後アクスタ部(部員二名)

 虎徹先生の目が、ニヤリと笑む。
 マストな決まり事とか、後出しされても困る。

「文化祭のポスターはさ、委員会とか部活にお願いしないといけないんだけど。お前ら、部活やってる?」

 やってないのを知っていて聞いてくるあたり、いやらしい。

「入ってないよ。先生、知ってるじゃん。だったら最初から俺らにポスターの話とか振るなよ」

 かなりイラっときた。

「今からどこかの部活に入る気もしないし、そういう事情なら俺はポスター、諦める」

 龍牙が息を吐いた。
 案外冷静だ。

「まぁまぁ、落ち着けって。二人で部活すればいいじゃん。部活っていうか、同好会?」
「はぁ?」

 イラっとしたまま返事をしたから、攻撃的になった。

「そうだなぁ、アクキー? アクスタ部、とか?」
「は? アクスタ部?」

 訳が分からない。

「先生、俺らがアクキー作ってるって、何で知ってんの?」

 龍牙が、もっともな質問をした。

「そうだよ。話してないのに、何で知ってんの?」
「さっき見せてくれたテンプレに、アクスタとアクキーって書いてあったから」
「あぁ……」

 俺と龍牙は二人揃って顔を手を覆った。

「八坂の家、アクリルグッズの工場だし、不思議に思わないよ。むしろ、活動しやすくていいんじゃねぇの?」

 虎徹先生があまりにも普通に言うから、そんな気がしてくる。

「新たな目標、できちゃったけど」

 龍牙が俺を振り返った。
 あんまり嫌そうな顔でもない。

「まだ、龍牙の分のアクキーできてないのに……けど、部活にすれば、それも部の活動になんのか」

 アクキーは、今のままだって作るのだから。
 部活や同好会にできるなら、コソコソしなくていい。

「でも……俺が絵を描くって、バレるんだなぁ」

 昔の嫌な思い出が蘇る。

『八坂、絵、上手すぎ。もしかしてキモオタ?』
『男なのに可愛い絵描けるとか、気持ち悪い』
『余裕で描けますみたいな顔、普通にイラつく』

 全部、イラスト同好会で先輩女子に浴びせられた台詞だ。
 ただの嫉妬で、八つ当たりだとわかっていても、辛かった。

 あの時は、見兼ねた虎徹先生が美術部に連れてきてくれた。
 美術部は楽しかったけど、俺が描きたい絵とは違った。

「もうバレてる相手、一人だけな」

 虎徹先生が龍牙を指さした。

「俺的には、アリ。世界一好きな絵師と一緒に部活できるとか、最高」

 龍牙の目がキラキラ輝いている。

(龍牙は最初からずっと、俺のことも、俺の絵も、こんな風にキラキラした目で見てくれる)

 そう思ったら、肩の力が抜けた。
 
「龍牙と二人でなら、楽しいよな」
「最高に楽しいと思う」

 龍牙が何度も頷いた。

「あ、でも俺、バイトで月水土は来られねぇけど。いい?」
「火木金で活動すればいいよ。ね、先生」

 俺は虎徹先生を振り向いた。

「ん? 俺?」
「こんだけ焚きつけたんだから、顧問やってくれんだろ」

 虎徹先生が満面の笑みを浮かべた。

「いいよ。部活するなら早いほうがいい。文化祭のポスターの締め切り、今月中だからな」
「は! 今月?」
「夏休みから、色んな施設に掲示予定だからな」

 当然のように言い切られた。
 俺と龍牙は、きっと同じ緊張を感じたに違いない。

「アクキー後回しにする?」
「それはダメ。色塗りしてきて。仕上げちゃったほうがいい。俺がポスターのラフ描いておくから」
「俺も、急いで色塗りして、ポスターの構図きってみる」

 龍牙と軽い打ち合わせをする。
 得も言われぬ使命感と危機感が生まれた。
 俺たちは、自分たちで掃除をしたこの美術準備室で、週に三日の放課後、アクスタ部を始めることになった。