放課後アクスタ部(部員二名)

 文化祭二日目。
 一日目より気合を入れて、俺たちは文化祭に臨んだ。

 早めに登校して、完売した干支の分の色紙を二人で描いた。

「すぐに売り切れるかもしれないし、残ってる干支も描いておこうか」
「りょ。完売したアクスタの種類と色紙のこと書いて、張り紙しよう」
「そうだね」

 思っていたよりやることが多くて、時間ギリギリになった。
 張り紙をして、扉を開け放つ。

「透馬」

 龍牙が拳を上げた。

「今日も、がんばろ」
「うん、がんばろ」

 二人で拳をぶつけ合った。

 一般来場開始の九時を過ぎると、美術準備室の前に列ができ始めた。

「売り切れちゃったアクスタもあって。色紙にイラストを描いたものを百円で販売しています」

 そう説明しながら接客を繰り返す。
 色紙は、すぐに足りなくなった。

「透馬、イラスト描いて。俺が接客する」
「わかった」

 俺は後ろの机で絵を描き始めた。

(アクスタがどんどん完売していくから、どれだけ描いても足りない)

 販売開始一時間半で、アクスタは完売した。

「一回、閉めよう。再開は午後!」

 俺は美術準備室の扉を閉めると、新たな張り紙を張った。

『アクスタ完売しました。
 只今、色紙製作中。
 色紙の販売開始は午後一時頃の予定です』

 部室に入って、空になった籠を眺める。
 見本に置いていたアクスタまで、全部売れた。
 奥の机で、龍牙がミニ色紙に絵を描いている。

「まさか、こんなに売れるとは思わなかった」
「俺も。でも、嬉しい」
「うん、嬉しいよね」

 龍牙が手を止めて顔を上げた。

「透馬の絵が認められた。嬉しい」
「二人の絵、だから」

 俺は龍牙の隣に座った。

「龍牙が構図を考えて、俺が線画を描いて、二人で色塗りした。二人で完成させたアクスタだ」

 もう何回も言っているのに、龍牙は何回も同じ間違いをする。

「俺は透馬を真似てるだけ」
「真似ていたとしても、龍牙っていうフィルター通せば、それは龍牙の絵だろ。トレースしてるわけじゃないんだから」

 龍牙が、ぐっと唇を噛んだ。

「そう、だけど」
「俺は龍牙の絵が好きだよ。構図の取り方だけじゃない。俺たち二人のミニキャラだって、めっちゃ可愛くて格好良い」

 あんな風に描いてくれて嬉しい。
 ドンドン絵が上手くなる龍牙を隣で見ていられるのが、嬉しい。

「待って、透馬。それ以上は言わないで」

 龍牙が顔を隠した。

「何で?」
「決心が鈍りそうになる」
「決心て、何の?」

 龍牙が、ごくりと息を飲んだ。

「本当は、俺……透馬と一緒に、進学……」

 ――コンコン

 美術準備室をノックする音がした。

「八坂、平野、いるか? 入るぞ」

 虎徹先生の声だ。

「あ、はい」

 返事をしたらすぐに扉が開いた。

「今、大丈夫か?」
「はい。アクスタ売り切れちゃって、代わりに色紙に絵を描いてました」
「おぉ、大盛況じゃないの。さすがだね」

 虎徹先生が部屋に入ってきた。
 後ろに、スーツ姿の見慣れない男性が立っていた。

「もう売り切れたの? 残念、欲しかったなぁ」
「さすがに、この早さで完売は想定外だな」

 虎徹先生も驚いているみたいだ。
 先生の後ろにいる男の人は、ニコニコと俺たちのスケブを眺めていた。

「紹介しとくな。前に話した、武蔵埜森美大の理事長の息子だ」
「その紹介の仕方、いやだなぁ。大学職員でいいのに」

 男の人が困った顔で笑った。

「武蔵埜森美大の……?」

 そういえば、大学の人が来ると言われていた。
 時間まで聞いていなかったので、油断していた。
 俺と龍牙は、弾かれるように立ち上がった。

「武蔵埜森美術大学、企画運営部の東野(ひがしの)建優(けんゆう)です。今日はお時間を取ってくれて、ありがとう」

 東野が丁寧に名刺を出した。
 ぎこちない仕草で受け取る。
 龍牙も同じように名刺をもらっていた。

「アクスタ部部長の八坂透馬です」
「副部長の平野龍牙です」

 俺たちは二人揃って、お辞儀をした。

「君が、八坂君で、君が平野君だね」

 東野が俺と龍牙を見比べる。

「スケッチブックを見せてもらっても、いいかな」
「あ、はい」

 飾っていた俺と龍牙のスケッチブックを、東野に手渡した。
 東野がスケッチブックを開く。
 一枚一枚の絵をじっくりと眺める。
 視線が線画やカラーを追いかけているみたいに見えた。
 
 枚数は俺も龍牙もそんなに多くないのに。
 かなり長い時間、見られていたような気になった。

 東野は最後のページを閉じると、小さく息を吐いた。

「はぁ……いいね」

 心から漏れたような声だった。