放課後アクスタ部(部員二名)

 午前中は、ちらほらとお客さんが来た。
 昼には交代で校内を回る時間もあった。
 買ってきた戦利品を見せ合ったり、お好み焼きとフランクフルトを食べながらメロンソーダを飲んだりしていたのに。

 午後になったら急に客が増えた。

「あの、デジタル新聞部の文化祭号外を見てきたんですけど、アクスタ部って、ここですか?」

 別の学校の制服を着た女子に聞かれた。

「はい、ここです」

 接客をしながら答える。

「あ、金髪の人いる。きっと、ここだよ」

 扉を開け放った部室の外で、私服の女子が龍牙とスマホを見比べていた。

(まさか、こんなことになろうとは)

 龍牙と二人で必死に客対応しながら、俺は只々驚いていた。

 どうしてこんなことになったのかと言えば。
 総ては新聞部の取材がきっかけだった。

「どうも、こんにちは。デジタル新聞部の三年、猿田(さるた)照喜(てるき)です。取材させてくんない?」

 俺と龍牙は、ポカンと口を開けて呆けた。

「文化祭の最中に号外を出してるんだけどさ。俺は変わった模擬店やってるクラスや部活の取材担当なんだ。アクスタ部なんて珍しくて目を引くよ。売り上げも上がると思うんだけど、どうかな?」

 猿田が俺と龍牙にスマホを向ける。
 俺は龍牙を振り返った。

「どうする?」

 正直、龍牙はこういう目立つの、好きじゃない気がする。
 龍牙が考える顔をした。

「……うん。透馬が良ければ、受けてみる?」
「いいの?」
「美術準備室って奥まっていてアクセス良くないし、見付けてもらうの待ってたら売れ残るかなって、ちょっと思った」
「言われてみれば、そっか」

 特別棟二階の端にある美術準備室は、偶然通りがかる場所じゃない。
 行こうと思わなければ来ない場所だ。

「よし、受けてみよう」

 俺は龍牙と顔を見合わせて頷き合った。

「おっけ、決まりね。よろしく」

 猿田が嬉しそうに笑った。

 そういう経緯があって、新聞部の取材を受けたのだが。
 昼過ぎに号外がデジタル新聞にアップされてから、ちらほらと客が増えた。

「効果あったね」

 なんて会話をしていたのも束の間。
 気が付いたら美術準備室の外まで列が伸びていた。

「デジタル新聞部の号外を見てきました」
「SNSでアクスタの写真を見て、絶対欲しいって思って」
「イケメン売り子さんがいるって聞いて、来ました」

 色んな声を聴きながら接客をする。
 目が回るほど忙しい。
 気が付いたら終了時間になっていた。

『文化祭一日目、終了の時間です。お疲れさまでした。生徒の皆様は片付けをして、下校準備をしてください』

 構内放送が文化祭一日目の終了を告げた。
 俺は龍牙と共に椅子に掛けて脱力した。

「座る暇もなかったね」
「水分すら、とれなかった」

 二人で息を吐く。
 並ぶアクスタを、ぼんやり眺めた。

「売り切れ、何種類?」
「卯と子と未……あと、辰。四種類」
「他も在庫、ほとんどないね」
「デジタル新聞部の号外、効果パネェ」

 まさか、こんなに人が来ると思わなかった。
 
「売れたね」
「うん、売れた」

 どちらからともなく、手を繋ぐ。

「龍牙と二人で作ったアクスタが、こんなに売れた」

 じわじわと喜びが湧いてきて、俺は握った手を持ち上げた。

「売れた、やったー!」
「やった」

 龍牙が俺の手を握り返して一緒に万歳した。

「明日、どうする?」

 ほとんど在庫がないアクスタを眺めて、龍牙が俺を振り返った。

「今日の感じなら、明日の午前中で売り切れるもんなぁ」

 俺は龍牙と繋いだ手を揺らしながら考えた。

「……その場で絵を描くか」
「絵を描く?」

 龍牙が首を傾げる。

「掌サイズのミニ色紙、持ってるんだけどさ。それに絵を描いて、来てくれた人に渡すんだ。売り物にはしないで、あげる。売り切れ御免的な」
「なる。干支の絵だったら、すぐに描ける」
「何回も描いたもんね」

 二人で何度も描き直して完成させた絵だ。
 手が覚えている。

「無料より、百円でもお金もらったほうがいいかも。いらないって人も、有料のほうが断り易い」
「そっか。龍牙、賢い」
「バイト先の店長が、タダより高い物はないって言ってた」
「おぉ、格言」

 俺は龍牙と目を合わせた。

「やってみようか」
「うん、描いてみよう」

 拳を握って、ぶつけ合う。

「二日目も、頑張るぞ!」
「頑張ろう」

 こうして俺たちの文化祭一日目が終わった。
 記憶がないくらい忙しかったけど、確かな充実感が体に残っていた。