放課後アクスタ部(部員二名)

 ついに文化祭が始まった。
 一三二個のアクスタが詰まった段ボールを抱え、俺は美術準備室へ向かった。

「おはよ、透馬」

 部室には既に龍牙がいた。
 机の配置や入口の固定などをしてくれていた。

「鍵開けと準備、ありがと」
「ん、昨日頑張ったから、ほとんどやることなかった」

 龍牙が俺の持っている段ボールを持ち上げた。
 
「飾るか」
「うん!」

 アルミ袋に入ったアクスタを、干支ごとに籠に入れる。
 その籠の前に見本を一つ、展示する。
 一列にすると長いので、段差を付けて二列に並べた。

「そんで、スケブも配置」

 お互いに描いたスケッチブックのページを捲る。
 スケブを立てて置くと、それだけでテーブルの上が華やかになった。

「龍牙の絵、やっぱり格好良いなぁ」

 ミニキャラの俺たちが制服で手を伸ばしている。
 上にはいらっしゃいませと書かれている。

「このイラストでアクキーとかアクスタ、作りたい」
「俺も欲しい!」

 龍牙の言葉に、挙手して同意した。

「作る?」
「うん……あ! 完売したら売り上げで作るの、どう?」
「これも部活の一環だから、アリ?」
「あり! 部長が許す!」

 文化祭の前に部長を決めてくれと小関先輩に言われて、じゃんけんした結果、負けた俺が部長になった。
 アクスタ部とはいうものの、二人しかいないから同好会なのだが。

(文化祭のしおりにも、アクスタ部って書いてくれている)

 抜けただけなのか気遣いなのか、わからない。
 あの小関先輩がうっかりはなさそうだから、気遣いと受け取った。

「透馬、そろそろ開会式、始まる」
「やば。鍵かけて体育館に行こう」
「その前に、透馬」
「何……ん」

 振り向きざまに、キスされた。
 そのまま、ぎゅっと抱きしめられた。

「今日と明日、がんばろ」
「……うん、がんばろ」

 互いにぎゅっと抱きしめ合って、離れた。
 名残惜しい熱を引き摺ったまま、俺たちは体育館に向かった。

 開会式が終わって、美術準備室に戻ってきた。
 普段は片面しか開けないドアを、今日は両面開ける。

「お客さん、来るかな」
「来ると良いな」

 龍牙が文化祭のしおりを開きながら答える。

「模擬店、食べ物も結構あるよ。お好み焼きとかフランクフルトとか」
「え! 食べたい」

 ラインナップが夏祭りみたいだ。

「交代で店番して、買いに行く?」
「一緒に行きたいなぁ。行けないか」

 アクスタ部を無人にするわけにはいかない。
 隣の美術部は展示のみで人が常駐していないので、留守番も頼めない。

 龍牙の手が伸びて来て、俺の頬をむにっと摘まんだ。

「ふぇ?」
「透馬が可愛いから、摘まみたくなった」
「ふぁ、ふぇ!」

 訳の分からないことを言われて、焦る。
 じたばたしていたら、龍牙が手を離した。
 
「昼近くなったら、どっちかが買い物行こう」
「うん、わかった」

 ほっぺたを摩りながら、龍牙を眺める。
 龍牙は嬉しそうに文化祭のしおりを読んでいた。

「いたいた! お兄ちゃーん!」

 龍牙と一緒にしおりを読んでいた俺は、顔を上げた。
 美兎が手を振っている。友人二人と一緒のようだ。

「来るの、早くないか?」

 まだ一般公開が始まってから三十分程度だ。

「色々回りたいもーん。楽しみにしてたんだ。龍牙くん、こんにちは」
「美兎ちゃん、いらっしゃい」

 一緒にいる友達が、龍牙を見てコソコソ話している。

「あの金髪の人、格好良い」
「え? 怖くない?」

 会話の一部が何となく聞こえた。

「買っていくのか?」
「うん! 兎が欲しい!」

 美兎が兎のアクスタを指さした。

「美兎ちゃんだもんね」
「私は何にしようかなぁ」

 美兎の友達もアクスタを見比べ始めた。

「これ、お兄さんが作ったんですか?」
「うん、そうだよ。俺と龍牙で絵を描いたんだ」

 友達が目を丸くした。

「すごい、お店に売ってるやつみたい」
「すごいでしょー! 美兎が持ってるアクキーも、お兄ちゃんが作ってくれたんだよ」

 鞄に付けたアクリルキーホルダーを美兎が友達に自慢している。

「これって、作ったやつなの?」
「お兄さん、すごい」

 友達が本気で感心している。
 中学生の反応は新鮮だ。

「私も買う! 自分の干支の戌にする」
「私は丑にしようかな。絵が可愛い」
「干支モチーフだけど、動物キャラとして描いたから、気に入った絵柄を選ぶといいよ」
「はい!」

 三人がそれぞれにアクスタを買ってくれた。

「お買い上げ、ありがとうございます」

 美兎が、その場でアルミ袋を開けた。

「あー、ホロじゃない。残念」
「ホロって、何?」

 友達が不思議そうに聞いている。

「ホログラム加工っていって、キラキラのが当たりなんだ」
「えー! 私も開ける」
「私も」

 友達二人が袋を開けたが、ホロではなかった。

「ホロじゃないけど、すごく可愛い!」
「お部屋に飾る」

 喜んでくれたみたいで、俺は地味に安心した。

(ちゃんと可愛く見えるんだ)

 美兎が鞄の中から、ごそごそと何かを取り出した。

「はい、これ差し入れ。二人で食べてね」

 手作りクッキーだ。
 美兎は何故か、俺ではなく龍牙に渡していた。

「ありがとう。美兎ちゃんも、楽しんで」
「危ない所に行くんじゃないぞ」
「はーい お兄ちゃんと龍牙くんも、頑張ってね」

 美兎が手を振る。
 友達二人がぺこりと頭を下げて部室を出て行った。

「最初のお客様が妹とは」
「いいじゃん。こんなに早く来てくれるとか、兄想いな妹だ」

 俺は龍牙を振り返った。

「アクスタ、売り切れる前に来ただけだって」

 今日ばかりは龍牙の真っ直ぐな言葉が照れくさかった。