放課後アクスタ部(部員二名)

 今日の放課後も、俺は龍牙と屋上にいた。
 龍牙は週に三日、コンビニでバイトしている。
 二日連続で会える日は貴重だ。

「色、綺麗だなぁ」

 龍牙が俺の絵に見惚れている。

「だろ。線画と色塗りには自信ある」

 構図取りは下手だし、パターンもないけど。
 その分、他に得意がある。

「やっぱフォロワー数一万は違う」

 龍牙が感嘆の息を漏らした。

「それいったらさ、平野だってソコソコフォロワーいるじゃん」
「え……?」

 龍牙が驚愕の目をした。

「まさか、俺のアカウント、知ってんの?」
「知ってるっていうか。わかったっていうか」

 名前とか、俺をフォローしているとか、見せてもらった絵とか。
 色々ヒントがあったから、ちょっと探したらすぐ見付かった。

「龍牙は俺の垢、知ってんのに。俺は知らないの、狡いじゃん」
「え……えぇ、はわ……あわわ」

 龍牙が狼狽えている。
 完全にオタク的な狼狽え方だ。

「龍牙、色塗り綺麗だよな。グラデとか上手い。あと、可愛い絵が多いから、やっぱ好きなんだなって思った」

 オリジナルは女の子や、ぬいぐるみを絵にしたようなキャラモノ。他は商業誌のファンアートが多かった。

「俺も可愛い絵描くけど、等身は趣味が逆っぽいよな」

 等身大の絵を描く時、俺は男を描くパターンが多い。
 龍牙が好きになってくれたのは、きっとミニキャラだろう。

「見られた……見られた」

 龍牙が顔を覆って打ちひしがれている。

「いや、だってさ。龍牙、自分から自分の絵を見せてくれたよね。だから、いいんだと思って」

 アクキーの構図を見せてくれた時、普通だったから気にしないのかと思った。

「アカウントは教えてない」

 龍牙が顔を覆ったまま、小さな声で言った。
 確かにアカウントは聞いていない。

「そっか……ごめん。フォローしたけど外しとく」

 ちょっと悲しいけど仕方ない。
 フォローを外そうとした俺の手を、龍牙が握った。

「外さなくていい。そのままでいいから」
「え? 嫌じゃないの?」

 龍牙が、こくりと頷いた。

「それより、何でミニキャラ龍のイラストは色、塗ってないの?」
「昨日、眠くなっちゃって」
「なる。それは仕方ない」

 龍牙が、うんうんと頷く。

「最初のデザインの龍、それで良かったら仕上げしてアクキーにしちゃうけど、どう? 直してほしいとことか、ある?」
「ない。あるわけない。これが良い」

 三段活用がオタクっぽい。
 いよいよ龍牙をオタク認定していい気がする。

「ミニキャラ、線画も最高。色が付くの楽しみしかない」

 龍牙がタブレットを胸に抱いた。
 その姿を見ていたら、俺の中のオタク心が疼いた。

「そのミニキャラ龍さ、龍牙が色塗るの、どうよ?」
「え? 何で、俺? 透馬、塗ってくれねぇの?」

 とんでもなく目を開いた龍牙が信じられない顔で透馬を見詰める。

「龍牙もカラー綺麗じゃん。折角、二個つくるんだし、線画は俺が描いたんだし。色塗りしてくれてもいいよなって思った」

 ひゅっと龍牙の喉が鳴った。
 
「合作……して、いいの?」

 龍牙が、ごくりと息を飲む。

「しようよ、合作。楽しいじゃん」

 打ち抜かれたように龍牙の上半身が弾かれた。
 何事かと思ったが、そのまま眉間を抑えた。

「SNSに……アップしても、いい?」
「ん? いいよ。出来上がったら、俺もアップしよ」

 ちょっと楽しみになってきた。

「うわぁ……やべぇ、俺。TOMAと仲良しアピしてるのやべぇ。でも自慢してぇ」

 心の声が駄々洩れだが、大丈夫だろうか。
 二人きりだし、聞こえない振りをしてあげることにした。

(オタクにはオタクの気持ちがよくわかる)
 
 頷きながら、タブレットを覗き込む。
 後ろから大きな影が掛かった。
 俺は、ドキッとして振り返った。
 怠そうな顔をした男性教師が俺たちを眺めていた。

「こら、クソガキども。屋上は立入禁止だって言っているだろうが」

 何故か、美術教師の速水虎徹が立っていた。

「へ? 先生、何してんの?」
「そりゃ、先生の台詞だ。屋上に歩いてく八坂の姿を見付けたから、追いかけて来たんだよ。お前ら、こんなとこで何やってんだ?」

 生徒指導でもない先生が、わざわざ屋上まで追いかけてくるなんて思わなかった。

「別に、悪いことしてないっす。タバコとか吸ってないっす」

 龍牙がフルフルと首を振る。
 同じように速水がフルフルと首を振った。

「そいつは良かった。でもな、屋上に入ること自体が悪いことです」

 そう言って、俺と龍牙の首根っこを掴まえた。

「罰として、美術準備室に来てもらいます」
「えぇ! 本当に何もしてないのに。酷いよ、虎徹先生」
「問答無用」
「そんなぁ」

 俺たち二人は、虎徹先生に襟首を掴まれて美術準備室に連行された。