放課後アクスタ部(部員二名)

 それからは、本当に黙々と作業した。
 間違わないように確認しながら袋詰めして、二時間ほどが経った。

「最後はホロだ」

 各干支に一つだけ、ホログラム加工を施した。
 それぞれの干支のカラーに合わせて色も変えている。
 ちょっと凝った仕様だ。

「やっぱ綺麗だよな、ホロ加工」

 龍牙がアクスタを傾けて、光り方を確認している。

「卯のピンク、可愛いし。寅の黄色、格好良いよね」

 光に当ててみると見え方が変わって、とても良い。

「当日、俺も買おう」

 そんなことを言いながら龍牙がアルミ袋に詰めた。

「データあるから、一個からでも作ってもらえるよ」

 一個ならアクリル板の切れ端でも作れる。

「ガチャっぽさ、味わいたいから、買う」

 龍牙の肩がワクワクしている。
 それを見ていたら、俺も買いたくなってきた。

「じゃあ、おれも買おう。龍牙はどれ買うの?」
「午」

 龍牙が迷いなく答えた。

「えへへ、それじゃ、俺は辰にする」

 文化祭当日の楽しみが一つ増えた。
 最後のアクスタを袋に詰めて、小さく干支をかき込む。

「終わったー!」

 叫んで、二人でハイタッチした。

「これで、文化祭の準備、終わったんだな」

 龍牙がぽかん、と気の抜けた顔をした。

「あとは、当日売り場にする美術準備室を、ちょっと飾り付けるくらいかな」
「ちょっとって、どれくらい?」
「……整理整頓くらい?」

 正直、あまり何も考えていなかった。

「せめて、アクスタを置くテーブルの上くらいは、どうにかしたいよな」
「アクリルボード置きたかった」

 龍牙が、がっくりと肩を落とした。
 アクリルボードが、かなり気に入ったらしい。

「んー、アクリルボードとは、ちょっと違うけどさ」

 俺はスケブを取り出した。
 絵を描いたページをパラパラとめくる。
 間を少し開いて、テーブルの上に立たせた。

「こんな風にしてイラストのディスプレイ、できるよ」
「うわ、なんかいい」

 龍牙がスケブを凝視した。

「タブレットでデジ絵を飾ったり、スライドショーにもできるけど」
「アクスタでデジタル描いたばっかだから、アナログもいい」

 龍牙が興味ありげにスケブを眺めた。

「スケブでも纏まった枚数の絵を描けるし、時間でページ捲れば同じだし。アナログで色塗りも楽しいよ。コピックとか」

 俺は画材道具を入れている箱から、コピックを取り出した。
 
「文化祭のポスターは水彩絵の具とポスターカラーだったから。次はコピックで描くって、どう?」

 龍牙の肩に、ワクワクが乗っかった。

「描きたい」
「じゃ、決まり」

 俺は画材道具の中のスケブを探した。
 ハードカバーの厚い表紙で、紐が付いているスケッチブックを二冊、取り出した。

「このスケブにお互い、描けるだけ描く」
「めっちゃ高そうなスケブじゃん」

 差し出したスケッチブックを、龍牙が手で触れて確かめている。

「それ、父さんのお下がりだから気にしなくていいよ。むしろ、使わないと勿体ない」
 
 父さんが中途半端に使っていたから、残りページ数は多くない。
 だけど、きっとちょうどいい。
 文化祭まで、あと二週間程度だ。

「コピック、色鉛筆、パステル……だったら準備できるかな」
「充分すぎる。贅沢すぎる」

 龍牙がパラパラとスケッチブックのページを捲った。

「それじゃ、連休明けからはディスプレイ用のイラスト作成な」
「やっべぇ、楽しみ過ぎる」

 龍牙が、ぎゅっと目を瞑った。
 俺も、ワクワクしてきた。

「掌サイズの小さい色紙とかもあるから、それ描いて売り物にもできるかも」

 スイッチが入ると、アイディアが止まらない。
 棚に手を伸ばしながら立ち上がる。
 気持ちが逸って、足がもつれた。

「うわ!」
「透馬!」

 転びそうになった体を、咄嗟に立ち上がった龍牙が受け止めた。

「あ、やば!」
「へ?」

 体勢を崩した龍牙の体が俺に覆い被さった。
 互いの足がもつれて、俺たちは二人してベッドに倒れ込んだ。

「ふわぁ、後ろ、ベッドで良かった……」

 見上げたら、目の前に龍牙の顔があった。
 まるで龍牙に押し倒されたような姿勢になっている。
 ドクリ、と心臓が大きく跳ねた。

「透馬」

 俺の名前を呟いて、龍牙の顔が近付いた。

「龍……んっ」

 唇を重ねて、吸い上げられた。
 何度も食まれて、舐められた。

(あれ……いつもと、なんか、違う)

 いつもは唇を重ねるだけのキスなのに。
 今はまるで、龍牙に食べられているみたいだ。
 熱い唇が動くたびに鼓動が早くなって、体が震えた。

「もっと、透馬に触れたい」

 キスの合間に漏れ聞こえた声が、切なく響く。
 龍牙の手が、俺の腹に触れた。
 ビクリと、体が跳ねた。

(え……え? 龍牙は、何して)

 龍牙の手が、服の上から腹を撫でる。
 くすぐったくて、ゾワゾワする。

「ま……待って!」
 
 龍牙の手を掴んで、思わず止めた。

「龍牙、俺、こういうの……まだよく、わかんない」

 声を出したら、目が潤んだ。
 龍牙が、目を見開いた。

「あ……ごめん。そういうつもりじゃ、なくて」

 龍牙が、慌てて体を離した。

「怖かった、よな……ごめん」
「うん、ちょっと怖かった」

 俺は龍がの肩を引き寄せて、抱き付いた。

「だから、ぎゅってして」
「え?」
「まだ体、プルプルしてるから。ぎゅってしてて」

 今、龍牙の温もりが離れたら、心細い。
 だから、抱きしめていて欲しかった。

 「透馬……しんどいくらい可愛い」

 龍牙が、俺の体を抱きしめてくれた。
 ふんわりと優しい。いつものハグだ。

(良かった。いつもの龍牙だ)

 やっと安心できた。
 俺も龍牙の背中に腕を回した。
 しばらくの間、俺たちはベッドの上に転がったまま、抱き合っていた。