放課後アクスタ部(部員二名)

 工場に入ると、既に機械が稼働していた。

「お、来たな。龍牙君、いらっしゃい」
「お世話になります」

 龍牙がぺこりと頭を下げた。

「まだプリントしてないよね?」

 まっさらなアクリル板が、UVプリンタにセットされている。

「今回は依頼をもらったお客様だからね。プリントするところから見せてあげようと思って、待っていたんだよ」
「ガッツリ家族割、すみません」

 お金は払うが、通常料金の半額程度だ。
 あまり大きな顔はできない。

「アクリル板だ」

 龍牙が感動した顔でUVプリンタを覗き込んだ。

「今回は大きさ的に一枚のアクリル板に十六体ずつで、板は九枚かな。台座を入れて十二枚」
 
 プリンタにライトが点いた。

「それじゃ、始めるよ」

 小さな起動音がして、アクリル板にイラストが刷られていく。

「おぉ!」

 俺と龍牙は同時に声を上げた。

「すげぇ、どんどん俺たちの絵になっていく」

 まるで幼い子供のように、龍牙がプリンタを食い入るように見つめる。
 あっという間に一枚の板が印刷できた。

「UVは印刷と同時に硬化して絵が固定されるから、すぐにカットできるんだ」
「そうなんですね」

 父さんが龍牙に印刷したアクリル板を手渡した。

「絵の部分は触っちゃダメだよ」
「はい……」

 龍牙がアクリル板を見詰める。
 俺も、龍牙が持っているアクリル板を覗き込んだ。

「売り物みたいだ」

 龍牙が、ぽつりと零した。

「売り物だよ」
「そうだけど……プロみたいな仕上がりだ」
「それは俺も、ちょっと思う」

 龍牙の構図で絵を描くのにも、最近は慣れてきたけど。
 自分一人で描いていた時より、ずっとプロっぽい。

「感動する」
「うん」

 キラキラした瞳で呟いた龍牙に、返事した。

「今回も、塗りは龍牙君?」
「二人で分担したよ」

 父さんが、感心したように頷いた。

「二人とも、カラーが上手くなったね。アクキーの時より色バランスもいいし、発色良くなったね」

 俺と龍牙は顔を見合わせた。
 はっきり褒められるのは嬉しいけど、こそばゆい。
 しかも父さんだから、余計だ。

「透馬は龍牙君の影響、かなり受けてるね。構図取りだけじゃなくて、絵の感じが全体的に変わった」

 父さんの視線が俺に向いた。

「変わったって、どんなふうに?」
「どう……そうだね。自由になったというか、楽しそうな絵になった」
「楽しそう、か」

 龍牙と絵を描くのは、楽しい。
 一人で描いていた時より、ずっと楽しくなった。

「小さい頃から透馬は絵を描くのが好きで上手かったけど。どこか教科書に沿って描かなきゃみたいな気持ちが抜けなかったよね。そういうの、龍牙君が壊してくれたみたいだ」

 父さんが嬉しそうに語る。
 俺は、息を飲んだ。

(そっか……そうかもしれない)

 一人で描いている時に感じていた窮屈さの正体が、わかった気がした。
 龍牙の構図を初めて見た時、こんなに自由で良いんだと驚いた。

「思ったこと、好きなように描けるようになった気は、する」

 言葉にしたら恥ずかしくて、耳が熱くなった。

「龍牙君は絵が堂々としたね。線の引き方が変わった?」
「透馬の絵を参考にしてます。ていうか、真似してます」

 龍牙が恥ずかしげもなく言ってのけた。
 父さんが、嬉しそうに笑った。

「俺と透馬の絵の違い、やっぱりわかりますか?」

 龍牙の質問に、父さんが迷わず頷いた。

「わかるよ。透馬じゃないほうの絵が、龍牙君の絵。まだ見慣れてないから、龍牙君の絵単体では、わからないかもしれないな」
「すげぇ。プロで、父親って感じします」
「俺も昔は絵を描いていたからね。昔取った杵柄ってやつだ」

 父さんがアクリル板を持って、レーザーカッターに移動した。

「プリントしたアクリル板をカットしていくぞ。ここに、こうセットして」

 レーザーカッターが動き出す。
 イラストの縁を綺麗に象って切っていく。
 その様を、俺と龍牙は並んで見入った。

「やっぱり白押しに台座と同じ模様、入れたかったなぁ」

 俺は小さく息を吐いた。
 予算を考えると、白押しにまで絵を入れるのは無理だった。

「それは次に作る時のお楽しみだな。やりたいこと全部やるより、心残りが一つくらいあったほうが、次への活力になるから」

 父さんに職人らしい大人の意見を言われた。

「俺もそう思う。だって、俺もう次を作りたくなってる」

 龍牙がキラキラした目で振り返る。
 工場に入ってから、龍牙はずっと感動しっぱなしだ。

「確かに、そっか。俺も龍牙ともっと色んなもの、作りたい」

 綺麗に切り抜かれていくアクリルスタンドを眺めながら、俺は未来の共同作業を思い描いた。