放課後アクスタ部(部員二名)

 九月第三週の木曜日。
 俺たちは二人して自分のタブレットにかじりついていた。
 
「特に不備はなさそうかな」

 今日は仕上がったイラストの最終確認だ。

 タブレットを買った日の龍牙は、ペンタブの感触を掴むのに梃子摺っていた。
 けれど、二日もしたら慣れていた。元々、器用な質だから、覚えが早い。
 線画の補強は、俺がほとんど担当した。
 色塗りは、何とか二人で頑張った。
 
「何とか塗りきった」
「綺麗に塗れてる」

 出来上がった絵を二人でまじまじと眺めた。

「あとはアクスタのテンプレに嵌めていくんだけど。そもそもテンプレサイズで描いてるから、パコっと嵌めるだけでいい」

 絵をドラックして、テンプレに置いていく。

「これさえ済めば、あとは」
「プリントアウトできる」

 俺と龍牙は顔を見合って頷いた。

「間に合った~」

 俺は机に突っ伏した。
 九月の連休までに仕上がらなかったら作るのは難しいと、父さんに釘を刺されていた。

「連休って、工場は忙しいんだと思ってた」
「週末や連休って、イベントが入ること多いから。工場はその前までが忙しくて、イベントがある連休は閑散とするんだよ」

 うちみたいに小さな工場は閉める場合が多い。
 少ないロットを作るより、ある程度の数を纏めて作るほうが効率がいい。

「で、プリントアウトしたら袋詰めの作業がある」

 中身が見えないアルミ袋に詰めて、当たりのホログラム印刷を隠す。

「干支一匹あたり十個、ホロ一個。全部で……一三二個」

 龍牙が指折り数える。

「一三二個、二人で袋詰めします」
「結構な数だな」
「だから龍牙、うちに泊まりに来なよ」
「え? いいの?」

 龍牙が嬉しそうな顔をした。
 思っていたより良い反応だ。

「うん、そのほうが作業しやすいだろ」
「行く」

 龍牙が前のめりに即答した。

「連休中……土曜日から水曜日の間、いつでもいいって父さんが言ってたから。バイトあるだろうし、龍牙の予定に合わせるよ」
「んー……」

 龍牙がスマホを見ながら考え込んだ。

「この前、シフト変わって月曜が休みだから。日月か、月火がいいかな」
「んじゃ、日曜にする? 伸びちゃっても何とかなる」
「伸びる? 二泊三日?」
「無理そう?」
「俺は平気だけど。透馬のお家的に、いいの?」
「うちは全然平気。母さんが龍牙のこと気に入ってるから。美兎も会いたがってる」
「マジか。それは嬉しい」

 龍牙が本気で嬉しそうだ。
 だからこそ、申し訳なく思う。

「龍牙……俺まだ、家族に付き合ってるって話してないんだけど」
「話さなくていい」

 龍牙が被せるように言った。

「俺、ボロ出したりしないから。内緒にしてよ」
「そうなの? 話そうと思ってたんだけど」

 俺は首を傾げた。
 龍牙が不安そうな顔をした。

「男同士だし、話して反対されたら……」
「多分、されないよ。むしろ歓迎だと思うけど」

 龍牙が目を丸くした。
 本当に丸くなって、ちょっとビックリした。

「うちの親、性別とかの偏見ないし。ていうか、母さんには多分半分くらいバレてると思う」
「え!」
「この前、いつから? って聞かれたから」

 親からそういう話をされるのは、恥ずかしい。
 龍牙が息を飲んだ。

「龍牙が嫌なら言わないけど。話したら、喜んでくれると思うよ」
「そっか」

 安心したように龍牙の肩から力が抜けた。

「龍牙のお母さんは、男同士とか、ダメ?」

 世の中がそこまで同性愛に優しくないのは、わかっている。
 矢代先輩が話していた通りだ。
 嫌がらせしてくる峰岸先輩だけでなく、バレれば稀有な目で見られるのは避けられないと思う。
 
「うちは……俺が幸せならいいって、母さんは言うと思うけど」

 その言葉に、俺は安心した。
 龍牙はお母さんを大切にしている。
 悲しませるような真似はしたくないだろう。

「龍牙のお母さんて、優しそうだよな。あと、格好良い」

 龍牙のことをとても大事にしているのだと、龍牙の言葉の端々から伝わってくる。

「格好良いかは、わかんねぇけど。自慢の母さんだよ」

 龍牙が照れくさそうに笑った。
 
(あ……なんか、いい)

 中途半端に否定とかしないで、真っ直ぐに自慢の母だと言える龍牙も、格好良い。
 龍牙が彼氏で良かったと、改めて思った。

「俺、やっぱり龍牙が好き」

 龍牙の手を、きゅっと握る。
 本当はキスしたいけど、学校だし、照れくさいから。指を絡めるだけにした。

「急に、どしたん? 嬉しいけど」

 龍牙が、手を握り返してくれた。

 龍牙は、一本筋が通った人だ。
 金髪もピアスも、龍牙なりの美意識がある。
 お母さんを大事にしていて、バイトも頑張っている。
 気遣いができる優しい人だ。

「えへへ、龍牙が彼氏で良かったなって、思った」
「俺も、透馬が彼氏で、良かった」

 龍牙の唇が、頬に触れた。
 ちゅっと可愛い音がして、唇が離れた。

「今は、ちょっとだけ」

 照れた目が、そっと逸れる。
 その仕草が可愛くて、胸がキュンとする。

「うん、大事なキスは、また後で」

 そう言って、俺は龍牙の頬にキスを返した。