放課後アクスタ部(部員二名)

 買い物を終えた俺たちは、カフェに入った。
 龍牙がタブレットの箱を出すと、ゆっくりと開ける。

「おぉ!」

 二人して、感嘆の声が出た。
 箱の中に綺麗なタブレットが鎮座している。
 そろりと手に取る。龍牙が思い切り笑んだ。

「すげぇ、俺のタブレットだ」

 その顔が普段より幼く見えて、可愛かった。
 俺まで嬉しくなってきて、ちょっと泣きそうだった。

「初期設定、していい?」
「うん、いいよ」

 アイスチョコラテを飲みながら、龍牙が初期設定を始めた。

「ネット繋がってなくても使えるお絵描きソフトがあるんだけど。ダウンロードする時だけ、繋げなきゃなんだよね」
「スマホ連動でいける?」
「いけるけど、重いよ」
「そっか」

 設定をしながら、龍牙が悩んでいる。

「じゃあさ、ウチくる? フリーWi-Fi使える」
「マジで? いいの?」
「うん。工場の従業員さんたちも使っているやつだから、平気」

 俺はシュガードーナツをパクリとした。

「その後、一緒に線画取り込んだりできるし。ペンタブって使い勝手が指と違うから、教えられるし」
「マジ助かる」

 ドーナツをパクパクしながら、はたと思った。

「これで帰っちゃって、平気? もっとデートする?」

 急に不安になって、問いかけた。
 龍牙が、動きをピタリと止めた。耳がじわじわと赤くなっていく。

「デート……そう、だよな」

 龍牙が手で口元を覆った。

「ごめん、俺……自分のことしか考えてなかった。これじゃ透馬が楽しくないよな」
「なんで? 楽しいよ。龍牙がタブレット買えて嬉しい」

 龍牙が、目を見開いた。

「でも、他にもっと……映画見たりとか、服選んだりとか、そういうこと、したいだろ」
「んー、どうかな」

 俺は考え込んだ。
 そういうのも、龍牙と一緒ならきっと楽しい。
 けれど、一番はと聞かれたら、決まっている。
 
「俺は、龍牙と一緒に絵を描いている時が最高に楽しいかな。場所はどこでもいいし、何していても一緒なら楽しいんだけど」

 へへっと笑う。ちょっと照れ臭くて、頬を指で掻いた。
 龍牙が深く俯いて震え出した。

「え? どうしたの? 龍牙は他のこと、したかった? なんか、ごめん」
「違う。同じだし……透馬が可愛すぎて、抱きしめたいの我慢してる」
「え! ここでは」

 龍牙が俺の手を握った。

「しない。だから、早く透馬の家に帰ろう」
「……うん」

 俺の家に一緒に帰る。
 当たり前のようで特別な気がして、ドキドキした。

 日曜の午後、電車はそれなりに人が多い。
 それでも俺たちは隣り合って手を繋いでいた。

(人に見られているのかな。なんて思われるんだろう)

 人の目が気にならないわけではないけれど、この手を離す気になれなかった。
 自宅の最寄り駅で降りる。
 目に入ってきた物を、俺は凝視した。

「龍牙、あれ!」

 俺の指の先を見付けた龍牙が、目を留めた。
 特賞を取ったポスターが大々的に掲示されていた。

「実は俺、知ってた」

 龍牙が気恥ずかしそうに答えた。

「え! 何で?」
「電車通学だから」
「そっかぁ……」

 言われてみれば、その通りだ。
 俺は自宅から学校まで自転車だから、全然知らなかった。
 今日の行きの電車ですら、気が付かなかった。

「近所のコンビニでも、貼ってくれてるよ」

 俺は、ひゅっと息を飲み込んだ。

「そんなに、いろんな場所に……たくさんの人が、この絵を観てるんだ」

 感慨深いって、きっとこういう感情だ。
 恥ずかしいけど、嬉しい。誇らしい。
 色んな感情が混ざり合って、胸がいっぱいだ。

「俺さ、このポスターを透馬と一緒に描けて、本当に良かったって思う」
「うん、俺も思うよ」
「だから、タブレット買おうって思ったんだ」
「そうなの?」

 龍牙が、タブレットが入った袋の紐を、強く握った。

「あのポスター以上の絵をアクスタで作りたい」

 握った手が、熱い。
 手から緊張が伝わってくる。

「うん……うん! 俺たちじゃないと描けない絵で、アクスタ作ろう!」

 今よりもっと全力で、龍牙と一緒に。
 それだけで、最高の絵が描ける。
 絵を描きたい衝動が、胸の奥に湧き上がった。

「急いで帰ろう、龍牙! 早く二人で絵が描きたい!」
「え? 走るのか?」

 俺は龍牙の手を握って走り出した。
 夏の暑さが色濃く残る九月上旬、まだまだ汗をかくけれど。
 色んな思いで胸がいっぱいで、走らずにはいられなかった。