放課後アクスタ部(部員二名)

 放課後、俺は屋上に走った。

「平野、いる?」
「ん、いる」

 いつもの通り、平野は壁に背を預けて座りながらスマホを眺めている。

(同クラなのに、なんで平野のほうが来るの早いんだ?)

 五時間目の授業にはいた気がする。
 なのに、いつの間にか教室にいなかった。

 平野は今日もスマホでTOMAの絵を眺めている。

(本当に好きなんだ。本人の目の前で堂々と……恥ずい)

 ちょっとむくれた気持ちになりながら、俺は鞄からタブレットを取り出した。

「前にもらった構図でラフ描いてみたんだよ。見てみて」
「観る」

 平野がスマホを放り出す勢いで前のめりになった。
 びっくりして、思わず仰け反る。

「いや、ごめん。楽しみで、つい」

 平野が、すっと下がった。やっぱり耳が赤い。

「う、うん。大丈夫。これさ、三パターン描いた」

 タブレットをスワイプしながら、絵を見せる。

「三つも?」

 平野が前のめりにパッドを覗き込んだ。

「尻尾くるんてして、こっちを見てるバージョンと、尻尾跳ねさせて目線上のバージョンと、尻尾跳ねて目線合わせてるバージョン」

 アクキの台座に合わせて、平野の構図でデザインした龍の絵を、俺なりにアレンジした。
 我ながら、かなり良く描けたと思う。

(特に二番目とか、自信作)

 こっそり思いながら、平野を眺める。
 三枚のラフを何回も見比べる平野の目は真剣だ。

「二番目がいい。バランス良いし、一番TOMAっぽい」

 名前を呼ばれて、ドキッとした。
 平野にとってはペンネを呼んでいるだけなんだろうけど。
 俺にとっては本名を呼ばれているみたいで落ち着かない。

(てか、平野も二番目、選ぶんだ。俺と同じ)

 じんわりと満足感が胸に込み上げた。

「やっぱり? 俺も二番目が良いかなって……」

 平野がタブレットを見詰めている。
 瞬きもせずに絵を見詰めて、口元を抑えた。

「俺が提案した構図で、TOMAが絵を描いてくれた。すげぇ……」

 顔が明らかに感動している。
 正直に嬉しいし、その姿に感動する。だけど。

「TOMA、TOMAってさ。TOMAは俺なんだけど!」

 平野の目が俺を見ていないのが、気に入らなかった。
 俺は平野の顔を覗き込んだ。
 平野の目が、否応なく俺を見た。

「あ……うん。知ってる」

 平野が伏し目がちに顔を逸らす。

「勝手に名前呼んで、ごめん」

 ぼそぼそと平野が謝った。

「それは別に、いいけどさ」

 俺が描いた絵なんだから、も少し俺と話をしてくれてもいいのに、と思っただけだ。

「そんなに呼びたいなら、普段から下の名前、呼んでよ」
「……いいの?」

 平野が目を見開いた。

「全然、いいよ。俺も龍牙って呼ぶし」

 平野があんぐりと口を開けた。

「嫌じゃねぇの?」
「なんで?」
「俺、ヤンキーだと思われてるし」
「実は違うじゃん」

 見た目が派手なだけで、中身は俺と同じ。
 反応とか見ると、どちらかと言えばオタクだ。

「そうだけど……」

 平野が口元を抑えた。

「名前で、呼んでくれんだ」

 呟いた平野が微笑んだ。
 その顔があまりに嬉しそうで、ドキリと胸が震えた。
 
(何か、可愛い)

 よく見ると平野は、ちょっとした表情や仕草が可愛い。

(俺のアクキー、可愛いから好きって言っていたっけ)

 本人も可愛い物が好きっぽい。
 今回の絵は格好良い龍をイメージして描いた。
 良かったんだろうか。

「龍のデザイン、それで良かった? もっと可愛くデフォルメしたミニキャラとかにする?」
「え……? 全然いい。全然あり。ミニキャラも興味あるけど」

 やっぱり、興味あるらしい。

「じゃ、ミニキャラも描いてくるよ。俺の馬と似た感じのデザインになるけど、いい?」
「えぇ! 嬉しいけど、どっちかとか選べねぇ!」

 平野が本気で困った顔をしている。
 反応が完全にオタクだ。
 そう思ったら、おかしくなった。

「両方作って、どっちも付ければいいじゃん」

 平野が息を飲んだ。
 それは気が付かなかった、みたいな顔だ。
 話さなくても表情に全部出る。
 口数は少ないけど、とてもわかりやすい。

「贅沢すぎる。宝物すぎる」

 平野が顔を手で覆ってプルプル震えている。
 一気に親近感が湧いた。

「明日、ミニキャラも色塗りまでしてくるから。楽しみにしとけ、龍牙」

 平野の肩を、ぽんと叩いた。
 叩いた方が、ビクリと震えた。

「……楽しみ過ぎて、眠れないかも」
「そこは、ちゃんと寝よう」
「ありがと……透馬」

 俺に向けた視線は、すぐにタブレットの絵に向いた。
 龍牙の指先が、そろりと絵の龍を撫でた。