放課後アクスタ部(部員二名)

 今日は水曜日なので、真っ直ぐ家に帰ってきた。
 月水土は龍牙がバイトなので、早めに帰る。

(夏休みは、午前中から部活で来たけど)

 二学期が始まったから、部活は放課後だけ、週に三日だ。
 土日は休みにする約束だから、部活ができない。

「あんな約束、しなきゃよかった」

 そうしたら、土日も龍牙に会えたのに。
 なんて、後悔したりする。

「でも、休まないと疲れちゃうよな。龍牙はバイトしてるんだから」

 俺みたいにずっと絵を描いている訳じゃない。
 我儘を言って無理をさせるのは嫌だ。

 ピロンとスマホが鳴った。

『日曜日、買い物行きたいんだけど、一緒に行かない?』

 ベッドでゴロゴロしていた俺は、飛び起きた。

「日曜日、買い物……デート!」

 カレンダーを凝視する。
 ワクワクがじわじわと胸に込み上げた。

「明日も明後日も学校で会うのに。メッセって」

 この時間はバイト中のはずだ。
 バイトをしながらコソコソメッセを打つ龍牙の姿が目に浮かぶ。
 俺はクスリと笑んだ。

『行く、絶対行く、二人でいこう!』

 テンション高めな返事をした。
 すぐに返信が来た。

『うん、楽しみ』

 短い返事に龍牙らしさが詰まっている。
 俺はスマホの画面を指で撫でた。

「日曜日……やった」

 スマホを胸に抱いて、嬉しさを噛み締めた。


 木曜日と金曜日は、部活ができなかった。
 バイト先の人が体調を崩して、急遽龍牙が入ることになったらしい。
 二日間とも、ちょっと話をしただけでサヨナラした。

(休んでいるのは女の人って言っていたけど。例の足を怪我していた人かな)

 財布を届けに行って、支えている姿を目撃し、抱き合っていると勘違いした。
 思えばあの頃から、俺は龍牙を特別に思っていたのかもしれない。
 
「うー……日曜日、会いたい。日曜日はバイト入りませんように」

 枕に顔をポスンと埋めて、俺は呟いた。


 日曜日は、無事に訪れた。
 待ち合わせの駅前で、ドキドキしながら龍牙を待つ。

(ちょっとはお洒落してきたつもりだけど。変じゃないよな)

 自分の姿を確認してみる。
 恋人になってから、制服じゃない姿で会うのは初めてだから、緊張する。

「ごめん、お待たせ」

 龍牙が駆け寄ってきた。

「待ってないよ、全然……」

 龍牙の姿に、俺は見惚れた。
 大きめなシャツとスキニー、厚底の靴。全体的に黒で、龍牙に似合っている。

(やば……格好良い)

 龍牙が俺の前に立って、ぼんやりしている。

「えっと、龍牙?」
「ごめ……制服じゃない透馬見るの初めてで。いや、二回目だけど」
「二回目……あ、そっか」

 前に、俺の家に来た時も私服だった。
 今日は、あの時とは違って見える。

「可愛い……今すぐ抱きしめたい」

 口元を手で覆って、龍牙がプルプル震えている。

「だ、抱きしめるのは、ダメ!」

 街中だし、人がいっぱいいる。恥ずかしい。
 慌てる俺の手を、龍牙が握った。

「大丈夫、我慢する。手を繋ぐのは、いい?」
「……うん、いいよ」

 ドキドキする胸を抑えながら、俺は龍牙と手を繋いで歩き出した。

「買い物って、何を買うの?」

 そういえば、何が欲しいのか聞いていなかった。
 一緒に出掛けられるのが嬉しくて、そこまで気が回らなかった。

「うん、ここ」

 龍牙がやってきたのは、中古デジタル機器専門店だった。
 ショーウィンドウには、中古パソコンやタブレット、スマホが並んでいた。

「もしかして、タブレット?」
「そう。そこそこ新しくて、デカいの」
「そっか」

 線画までは俺に付き合ってアナログでやっていたけど。
 この後は画像を取り込んで、デジタルで色を塗る作業になる。
 今まで龍牙はスマホで描いていたみたいだけど、正直スマホは画面が小さくて描きづらい。

(新品は、高いもんな)

 俺だって、父さんのお下がりを使っている。
 龍牙はそれでなくても母さんに金の心配を掛けたくないと言っていた。

(きっと、バイト代で、自分で買うんだよな)

 俺は龍牙の手を、ぎゅっと握った。

「特賞の金一封、使おう。あれ、部費だから足しにしよう」
「部費使っちゃったら、俺のじゃねぇじゃん。自分の欲しい」
「龍牙のにして、いいよ。部員は二人なんだし」

 龍牙の指が伸びて来て、俺の唇をふにっと押した。

「それ以上、嬉しいこと言ったら、この場でキスする」
「何で、そうなる!」

 訳が分からな過ぎて、驚きが止まらない。

「透馬のそういうトコ、好きだなって思うから。でも、使わない。自分で買いたいから」

 龍牙が微笑んだ。
 どこか誇らしげで、嬉しそうに見えた。

「うん……わかった」

 これ以上、部費を使おうとは言えなかった。
 俺はショーウィンドウの中のタブレットを必死に探した。

「龍牙、これ。最新より二個型落ちだど、性能はそんな変わんないよ。画面が大きくて使いやすいと思う」
「おぉ、良さそう。こっちは?」
「こっちも悪くないかな。俺が使ってるタブレットの、一個前の」
「ふぅん。値段的に、どっちかだな」

 龍牙が腕を組んでタブレットを見比べている。

「安いほうにして、浮いたお金でペンタブ買うのもアリ」
「それアリだな」

 俺は他の商品にも目をやった。
 ショーウィンドウの端っこに目が釘付けになった。

「龍牙、これ! 三個型落ちだけど、画面大きくてペンタブ付いてる!」
「値段、一番高いけど。あとからペンタブ買うこと考えたら、一番安いか」

 俺たちは、そのタブレットをじっと見詰めた。

「これだな」
「これがいいよ」

 声が被った。
 二人で顔を見合わせて、頷き合う。

「店員さんに声掛けてくる」
「うん」

 龍牙の背中を見送って、俺はもう一度、そのタブレットを見詰めた。
 これから龍牙が、これを使って絵を描く。
 ワクワクが止まらなかった。