放課後アクスタ部(部員二名)

 腕を引っ張られて連れてこられたのは、人気のない中庭だった。
 肩を掴まれて、校舎の壁に押し付けられた。

「いたっ」
「嘘って何?」

 唸るような声が聞こえて、俺は恐る恐る目を開けた。

「だから、俺たちが恋人って」
「なんでそれが嘘になるの?」

 龍牙の顔が近い。
 ドキドキするのに、胸がざわついた。
 龍牙の表情が、とても痛そうだったから。

「何でって」

 それ以上、言葉が出なかった。

「俺は、伝えたよ。花火の夜。忘れたの?」
「花火の、夜?」

 夏祭りの夜がフラッシュバックする。
 あの時、龍牙がくれた言葉は。

「一緒に、いたいって」
「好きだって、言った」
「……え?」

 俺は息を飲んだ。
 あの時、花火の音が煩くて、全部を聞き取れなかった。

(まさか、あの時、聞こえなかった言葉って)

「透馬が好きだ。嘘でも何でもない。芝居なんかじゃないよ」

 龍牙の声が涙を含んでいる。
 今にも泣き出しそうだ。

(そうだったんだ。もう、大事な言葉を龍牙は俺に、くれていたんだ)

 胸がじわりと熱くなる。
 トクトクと、鼓動が少しずつ早くなる。
 俺は龍牙の顔に手を伸ばした。

「龍牙、こっち、見て」

 龍牙が俯いていた顔を上げた。
 頬を手で包んで、唇にそっとキスをした。

「俺も、龍牙が好き。俺の好きな人は、龍牙だよ」

 龍牙が目を見開いた。

「あの時、花火の音で掻き消えて、全部は聞こえなかったんだ。一番大事な言葉、聞き逃して、ごめん」

 龍牙の肩に、ぽんと顔を乗せる。
 腕を龍牙の背中に回した。

「好きだから、一緒にいたい。龍牙の隣は、心地いい」

 龍牙の肩から力が抜けた。
 腕が俺の背中に回って、抱き寄せた。

「やっと、透馬の気持ちが聞けた」

 耳元で龍牙の声が聞こえた。

「好きだよ、透馬」

 今度は、ちゃんと聞こえた。
 龍牙の手が俺の頭を撫でて、胸に抱いた。
 背中を抱きすくめる腕は、温かい。

(なんだ、二人とも同じ気持ちだったんだ)

 そう思ったら、とても安心した。
 じわりと灯った熱が沁みて、じれったい甘さが広がる。

「キス、していい?」
「……うん」

 顔をあげたら、顎を掴まれた。
 唇が降ってきて、重なった。

(花火の夜より、甘い)
 
 今までで一番、甘くて蕩けそうなキスだった。
 唇を離して見詰め合う。
 自然と笑みがこぼれた。

「部室に戻って、宿題する?」
「ん、今日は、絵を描こう」
「いいね」

 どちらからともなく手を繋いで、歩き出す。
 横に並んで歩ける今が、嬉しい。

「宿題は、明日な」
「数学の続きね」
「いやだぁ」

 泣き言を言っても、大丈夫。
 隣には龍牙がいる。
 繋いだ手を眺めながら、満たされた気持ちで階段を昇った。