夏祭りの後、うちに泊まるか聞くのを忘れた。
というか、どんな風に家に帰ってきたか、覚えていない。
「ヨーヨー、お揃い」
色違いでお揃いのヨーヨーを部屋に飾った。
「龍牙が取ってくれた、ぬい」
射的で龍牙が取ってくれた竜のぬいぐるみを握り締める。
鞄に付けて、俺は今日も部活に行った。
職員室に行ったら、もう鍵がなかった。
美術準備室が開いていて、既に龍牙がいた。
「おはよう、透馬」
「おは、よう」
龍牙を見た瞬間に、花火大会の時のことを思い出した。
顔が熱くなって、俯きながら席に着いた。
(いつもなら俺のほうが早いのに、今日は龍牙のほうが早く来てた)
心の準備ができないまま、スケブを取り出す。
「竜のぬい、つけてくれてんだ」
「え? う、うん。気に入ってる、から」
龍牙が嬉しそうに微笑んだ。
その笑みに、ドキリとする。
「羊と猿の構図、考えてみたんだけど、どう?」
龍牙が自分のスケブを俺に見せた。
「うん、いいと、思う」
チラチラとスケブを見ながら、頷く。
「線画、どこまでいった?」
「えっと……馬まで終わってる。羊、描いてみるよ」
「うん」
龍牙が、そっと俺の手を握った。
俺の肩が大袈裟なほど跳ねた。
(何で、急に手を握る!)
ドキドキして、息が止まった。
そんな俺を眺めて、龍牙が笑った。
「意識しすぎ」
「それは、だって!」
龍牙のことが好きかもしれないと、気が付いたばっかりだ。
俺がこんなことを思っているなんて、龍牙はきっと知らない。
だから、そんな涼しい顔をしていられるんだ。
「夏祭り、楽しかった」
龍牙の一言で、一昨日の夜が頭の中に蘇った。
楽しかったけど、それだけじゃなかった。
「それは……俺も」
「うん、良かった」
龍牙が、ほっとしたように息を吐いた。
「透馬が描いた線画、スマホに取り込んでいい? 色塗りも、ぼちぼち始めたほうがいいかと思ったけど、早い?」
「早くないけど。構図、終わってからでも、いいよ」
「じゃ、構図だけ先に全部、作るか」
握った手を離して、龍牙が鉛筆を持った。
ほっと息を吐いて、俺は手を引っ込めた。
「あと、線画確認して欲しい。細かい所の直しもしたいし」
「ん、わかった」
龍牙が俺に向かって微笑んだ。
笑顔がいつもより柔らかい気がする。
(龍牙が俺のこと、好きみたいに見える。俺に都合よく見える)
恋心を意識した途端、龍牙が自分に優しく感じるなんて。
龍牙の気持ちなんて、わからないのに。
グルグル考え事をしていたら、手が全く動かなかった。
「そういえば、透馬。夏休みの宿題、終わった」
「……全然」
龍牙の問いかけが、ざっくりと胸に刺さった。
お陰で浮足立ていた気持ちが、無情な現実に落ちて来た。
「部活ばっかり頑張り過ぎたなぁ」
がっくりと机に突っ伏す。
「じゃあさ、今週と来週、一緒に宿題やらね?」
「え? でも、バイトは?」
龍牙はバイトが早入りになる日もい多いし、シフト交換もそこそこある。
だから、無理に部活はしないで休みにする日もある。
「絵を描くの半分、宿題半分、みたいな」
「なるほど、そっか。この時間でやればいいのか」
夏休みはあと二週間ある。
今からやれば、十分間に合う。
「絵を描く楽しい時間が、宿題の時間になるのか」
俺はやっぱり机に突っ伏した。
「分担でやるとか。俺、数学とか化学とか得意」
「マジで? 俺、文系得意だよ。古文とか英語とか」
正直、理系科目は苦手だ。
龍牙が理系得意なら、かなり助かる。
「んじゃ、明日から宿題するか」
「うん、教科書持ってくる」
俺は素直に頷いた。
龍牙は見た目がヤンキーなのに、こういうところは俺より真面目だ。
「龍牙は、進学するの?」
「しない。就職」
「そうなんだ。成績いいのに、勿体ないね」
貼り出された一学期の期末テストの結果を見て、龍牙は頭が良いと知った。
「これ以上、母さんに金の心配かけたくないから。透馬は進学?」
「え? あ、んー、うん」
前半の言葉が頭に残って、自分の話に咄嗟に返事ができなかった。
「俺は……親には大学行けって言われているけど。本当はイラストレーターの専門学校、行きたくて」
自分の悩みが、とても贅沢に感じた。
「それは、悩むな」
「うん。どっちに転んでも良いように、勉強はしてるけど」
やりたいことではないから、いまいち身が入らない。
「うちの母さんはやりたいこと好きにやれっていうけどさ。だから、俺が髪染めたりピアスあけたりしても、気にしねぇけど」
「龍牙のお母さん、凄いね」
うちの親だったら考えられない寛容さだ。
「龍牙はどうして、髪染めたりピアスあけたりするの?」
「綺麗だし、可愛いから」
予想通りと言えば予想通りな返事だ。
「透馬も髪染めたら可愛いと思うけど」
「俺は無理かなぁ。親が厳しい」
「そっか。今のままでも充分、可愛いけどな」
龍牙がさらりと褒めた。
何も言えなくて、言葉に詰まる。
(また、可愛いって言った)
格好良いのほうがいいと何回も言っているのに、改めてくれない。
前はそれが嫌だったのに、今はそんなに嫌じゃない。
(それどころか、ちょっと嬉しいと思ってる。やっぱり俺は龍牙が好き、なのかな)
自分の気持ちはまだ、はっきりわからないけれど。
こうして二人で絵を描いている時間が、何より尊く思えた。
というか、どんな風に家に帰ってきたか、覚えていない。
「ヨーヨー、お揃い」
色違いでお揃いのヨーヨーを部屋に飾った。
「龍牙が取ってくれた、ぬい」
射的で龍牙が取ってくれた竜のぬいぐるみを握り締める。
鞄に付けて、俺は今日も部活に行った。
職員室に行ったら、もう鍵がなかった。
美術準備室が開いていて、既に龍牙がいた。
「おはよう、透馬」
「おは、よう」
龍牙を見た瞬間に、花火大会の時のことを思い出した。
顔が熱くなって、俯きながら席に着いた。
(いつもなら俺のほうが早いのに、今日は龍牙のほうが早く来てた)
心の準備ができないまま、スケブを取り出す。
「竜のぬい、つけてくれてんだ」
「え? う、うん。気に入ってる、から」
龍牙が嬉しそうに微笑んだ。
その笑みに、ドキリとする。
「羊と猿の構図、考えてみたんだけど、どう?」
龍牙が自分のスケブを俺に見せた。
「うん、いいと、思う」
チラチラとスケブを見ながら、頷く。
「線画、どこまでいった?」
「えっと……馬まで終わってる。羊、描いてみるよ」
「うん」
龍牙が、そっと俺の手を握った。
俺の肩が大袈裟なほど跳ねた。
(何で、急に手を握る!)
ドキドキして、息が止まった。
そんな俺を眺めて、龍牙が笑った。
「意識しすぎ」
「それは、だって!」
龍牙のことが好きかもしれないと、気が付いたばっかりだ。
俺がこんなことを思っているなんて、龍牙はきっと知らない。
だから、そんな涼しい顔をしていられるんだ。
「夏祭り、楽しかった」
龍牙の一言で、一昨日の夜が頭の中に蘇った。
楽しかったけど、それだけじゃなかった。
「それは……俺も」
「うん、良かった」
龍牙が、ほっとしたように息を吐いた。
「透馬が描いた線画、スマホに取り込んでいい? 色塗りも、ぼちぼち始めたほうがいいかと思ったけど、早い?」
「早くないけど。構図、終わってからでも、いいよ」
「じゃ、構図だけ先に全部、作るか」
握った手を離して、龍牙が鉛筆を持った。
ほっと息を吐いて、俺は手を引っ込めた。
「あと、線画確認して欲しい。細かい所の直しもしたいし」
「ん、わかった」
龍牙が俺に向かって微笑んだ。
笑顔がいつもより柔らかい気がする。
(龍牙が俺のこと、好きみたいに見える。俺に都合よく見える)
恋心を意識した途端、龍牙が自分に優しく感じるなんて。
龍牙の気持ちなんて、わからないのに。
グルグル考え事をしていたら、手が全く動かなかった。
「そういえば、透馬。夏休みの宿題、終わった」
「……全然」
龍牙の問いかけが、ざっくりと胸に刺さった。
お陰で浮足立ていた気持ちが、無情な現実に落ちて来た。
「部活ばっかり頑張り過ぎたなぁ」
がっくりと机に突っ伏す。
「じゃあさ、今週と来週、一緒に宿題やらね?」
「え? でも、バイトは?」
龍牙はバイトが早入りになる日もい多いし、シフト交換もそこそこある。
だから、無理に部活はしないで休みにする日もある。
「絵を描くの半分、宿題半分、みたいな」
「なるほど、そっか。この時間でやればいいのか」
夏休みはあと二週間ある。
今からやれば、十分間に合う。
「絵を描く楽しい時間が、宿題の時間になるのか」
俺はやっぱり机に突っ伏した。
「分担でやるとか。俺、数学とか化学とか得意」
「マジで? 俺、文系得意だよ。古文とか英語とか」
正直、理系科目は苦手だ。
龍牙が理系得意なら、かなり助かる。
「んじゃ、明日から宿題するか」
「うん、教科書持ってくる」
俺は素直に頷いた。
龍牙は見た目がヤンキーなのに、こういうところは俺より真面目だ。
「龍牙は、進学するの?」
「しない。就職」
「そうなんだ。成績いいのに、勿体ないね」
貼り出された一学期の期末テストの結果を見て、龍牙は頭が良いと知った。
「これ以上、母さんに金の心配かけたくないから。透馬は進学?」
「え? あ、んー、うん」
前半の言葉が頭に残って、自分の話に咄嗟に返事ができなかった。
「俺は……親には大学行けって言われているけど。本当はイラストレーターの専門学校、行きたくて」
自分の悩みが、とても贅沢に感じた。
「それは、悩むな」
「うん。どっちに転んでも良いように、勉強はしてるけど」
やりたいことではないから、いまいち身が入らない。
「うちの母さんはやりたいこと好きにやれっていうけどさ。だから、俺が髪染めたりピアスあけたりしても、気にしねぇけど」
「龍牙のお母さん、凄いね」
うちの親だったら考えられない寛容さだ。
「龍牙はどうして、髪染めたりピアスあけたりするの?」
「綺麗だし、可愛いから」
予想通りと言えば予想通りな返事だ。
「透馬も髪染めたら可愛いと思うけど」
「俺は無理かなぁ。親が厳しい」
「そっか。今のままでも充分、可愛いけどな」
龍牙がさらりと褒めた。
何も言えなくて、言葉に詰まる。
(また、可愛いって言った)
格好良いのほうがいいと何回も言っているのに、改めてくれない。
前はそれが嫌だったのに、今はそんなに嫌じゃない。
(それどころか、ちょっと嬉しいと思ってる。やっぱり俺は龍牙が好き、なのかな)
自分の気持ちはまだ、はっきりわからないけれど。
こうして二人で絵を描いている時間が、何より尊く思えた。



