放課後アクスタ部(部員二名)

 神社の裏側には、小さな林がある。
 林を抜けると、開けた丘に出る。
 途中の道が暗くて怖いので、来る人はあまりいない。
 だからここは、ゆっくりと花火を見られるレアスポットだ。

「お好み焼き、美味い」
「焼きそばも美味いよ。マヨネーズ良き」

 食べ物を買い込んで、レアスポットにやってきた。
 平らな岩の上に座っているが、岩が小さいのでちょっと狭い。
 二人でくっ付いて座りながら、戦利品を食す。

「半分食った。交換する?」
「ん、俺も半分食った」

 焼きそばとお好み焼きを交換する。
 腰に下げた竜のぬいぐるみとヨーヨーが揺れた。

「透馬、ヨーヨー釣り上手かったな」
「へっへーん。妹にめちゃめちゃとってやってたからなぁ」

 あまりにも取り過ぎたから、返した。
 持ち帰る分は一個ずつあればいい。

「イカ焼きなかったの、残念だけど。たこ焼きあったから、いいや」

 二人の間に置いたたこ焼きを、パクリとする。

「花火、七時からだっけ? もうすぐだ」
「俺、今年初の花火だ。楽しみだなぁ」
「俺も。打ち上げ花火、何年振りだろ」

 俺は龍牙を振り返った。

「久し振り?」
「ん、かなり」
「そっか。えへへ」

 龍牙が不思議そうに俺を眺めた。

「あ、ごめん。なんかさ、龍牙と一緒に経験する初めてとか、多いなと思って。久し振りの花火が一緒なのも、嬉しいなって」
「俺も、嬉しいよ」
「うん!」

 龍牙と一緒は心地良い。
 安心して一緒にいられる。

「龍牙が俺のアクキー拾ってくれて、良かった。これからも、二人でいろんなことしよう」

 龍牙を振り返る。
 喉が上下して、息を飲んだ気配がした。

「だったら、透馬。俺は……」

 ドォン、と大きな音がして、周囲が明るくなった。
 夜の空に大輪の花火が咲いた。

「うわぁ、綺麗だ」

 俺は立ち上がって、前に出た。

「龍牙、花火始まった!」

 空を指さして振り返る。
 龍牙が立ち上がり、隣に立った。

 ドンドンと大きな音が連続で鳴り響く。
 その度に空が明るくなって、色とりどりの花火が広がっては消えていく。

「この花火、龍牙と見られて良かった」

 隣の龍牙を見上げる。

「俺も、透馬と一緒で良かった」

 龍牙の手が伸びて来て、俺の腰を抱いた。
 体を引き寄せた。

「え……龍牙?」
「透馬と一緒が良いんだ。これからも、ずっと、俺は……」

 ドォンと、また花火が上がった。
 音が大きくて、龍牙の声が聞こえない。

「龍牙? 今、何て……」

 聞き逃してはいけない言葉を言っている気がする。
 龍牙の唇が動いた。

(何て、言ってる。龍牙は俺に、何て)

 唇の動きを追う。
 花火に明るく照らされた唇が、近付いた。

「龍、牙」

 近付いた唇が、俺の唇に重なった。

(え……?)

 瞬間、頭が真っ白になった。
 温もりが滲んで、馴染んでいく。
 唇は、すぐに離れた。

「りゅう……」

 龍牙の腕が俺の体を抱きしめた。
 龍牙が俺の肩に顔を埋めた。

「……、だから……一緒にいたい」

 耳元で、音が消えた。
 花火が撃ち上がる音が、その場の総てを打ち消した。

(今、何て……一緒にいたいって、言った?)

 頭がうまく回らない。
 キスと、抱きしめられている今で、胸がいっぱいだ。

「……俺、も」

 ほとんど反射みたいに俺は、そう返事した。
 龍牙の腕が、俺の体を強く抱きしめた。

「……良かった」

 心底安堵した声が、耳元に響いた。
 龍牙が俺に頬擦りした。
 少しだけ濡れた唇が、頬を掠めた。
 体が、無意識にフルリと震えた。

「花火、終わったっぽい」

 龍牙が俺を抱いたまま顔を上げた。
 俺もつられて空を見上げた。
 黒い夜空に白っぽい煙が漂っている。
 火薬の焦げるような匂いが、ほんのり鼻についた。

「いつの間にか、終わっちゃった」

 ずっと龍牙ばかり見ていた気がする。
 花火の記憶がない。

「また、別の花火大会とか、探して行ってみる?」

 龍牙が微笑んだ。
 俺は素直に頷いた。

 龍牙が食べ終わった容器を袋に入れて片付けを始めた。
 
「喉乾かね? ゴミ捨てがてら、飲み物買いに行こう」

 龍牙の態度は、まるでいつも通りだ。

(さっき、龍牙は何て言ったんだろう)

 一緒にいたいの前に言った言葉が、聞こえなかった。

「あの、龍牙」
「ん? どした?」

 龍牙が優しく笑んでいる。
 学校では見ない表情だ。

「……ううん、飲み物、買いに行こう」

 さっき、なんて言ったの?
 そう聞けばいいだけなのに、聞けなかった。
 どうしてか、聞いたら龍牙を傷付ける気がした。

(キス……したよな?)

 龍牙がまるで何事もないような態度だから、それすらも聞けない。
 俺が作った幻だったんじゃないかとさえ思う。

(龍牙が、俺に、キス……した?)

 自分の唇に、そっと触れる。
 しっとりと濡れた唇に、温もりが残っている。

(俺が作り出した、幻? 俺って、龍牙とキスしたいと思ってる?)

 龍牙に対して恋愛的な好きが、俺の中にはあるんだろうか。
 そう気付いたら、鼓動がトクトクと走り出した。

(ヤバい、俺……龍牙のこと、好きなのかもしれない)

 ゴミ袋を持った龍牙が、振り返った。

「行こう」

 自然に俺の手を握って、龍牙が歩き出す。
 後ろから見上げる肩が、ワクワクしているように見える。
 俺の手を握る龍牙の手が、いつもより強い気がする。

「……うん」
 
 すごく嬉しいのに、素直に喜べない。
 何かが胸に引っ掛かっている。
 モヤモヤした気持ちを抱えたまま、俺は龍牙と手を繋いで歩いた。