放課後アクスタ部(部員二名)

 龍牙がレインボー綿あめをパクリとした。

「でけぇ、美味い」
「だろ。子供の頃から大好きなんだぁ」

 俺も反対側から七色の綿あめにかぶり付いた。
 口の中に甘さが広がる。幸せな気持ちになった。

「二人で一個って、なんかいい」

 龍牙がぽそりと呟いた。
 俺も、うんうんと頷く。

「二人だと分け合えるから、他にも色々食べられるもんな」
「そういう……?」

 龍牙が微妙な顔をしている。
 首を傾げた俺は、気が付いた。

「甘いの食べたから、しょっぱいの食いたくなった? イカ焼き、どこかな」

 俺はお祭りの出店を見回した。
 
「近くにイカ焼きないけど……かき氷がある」
「マジ? 喉乾いたし、かき氷食おう」
「おぅ!」

 出店に走って、じっと見詰める。

「どした?」

 龍牙が不思議そうに俺を覗き込んだ。

「龍牙、どの味がいい?」
「俺はどれでもいいけど、透馬はイチゴだろ」
「何で分かったの?」

 びっくりして背筋が伸びた。

「何となく。可愛いから」

 龍牙がクスクスと笑っている。
 
「だから、可愛いって言うなよ」
「じゃぁ、似合うから」
「言い直しても、ダメ。意味が変わってない」

 プンとそっぽを向く。
 結局、俺はイチゴ味のかき氷を買った。

「龍牙は?」
「それも半分こでいい? 一個食べたら腹痛くなりそうだから」
「そうなの? じゃ、半分こしよう。はい、あーん」

 ストロースプーンの先にイチゴ氷を乗せて、龍牙の口に持っていく。
 龍牙が照れた顔で、ぱくりとした。

「んま」
「だよな。俺も食べよ」

 同じようにパクリとする。
 冷たい氷が喉に心地良い。

「間接キスじゃん」
「ん? 何て?」

 聞こえなくて体を寄せたら、龍牙がストローでかき氷を啜った。

「美味いなって」
「だよな。でも、甘いの続いたから、次はしょっぱいのがいい」
「だな」

 俺もストローでかき氷を啜った。
 出店を眺めていたら、射的が目に入った。

「龍牙、射的だ!」
「やる?」
「うん!」

 店に走り寄ると、景品をじっと見詰める。

「透馬、あれ」
「龍牙、あれ」

 二人は同じように竜のミニぬいぐるみを指さしていた。

「龍牙、欲しそう」
「透馬は馬だよな。馬はないのか」

 お菓子やぬいぐるみの景品が並ぶ。
 ぬいぐるみの中に竜はあるが、馬はない。

「十二支神社の御神体って竜だからな」
「十二支なら、馬があってもいいのに」

 龍牙が本気で残念そうだ。

「俺は竜が欲しいなぁ。可愛いぬい、龍牙が好きそうじゃん」
「好きだけど……俺が取ったら、透馬が持っていてくれる?」
「そりゃ、持ってるけど。龍牙が持ってるほうが、いいんじゃないの?」

 龍牙が早速、的屋のおじさんにお金を払っている。

「俺が取った竜のぬいを、透馬に持っていて欲しい」

 射的の銃を龍牙が構える。
 そんな姿も様になっていて、格好良い。
 パチン、と一発目の玉がぬいぐるみを掠った。

「惜しい!」

 龍牙が、きゅっきゅと次の玉を籠める。
 すぐに構えた。

「頑張れ、龍牙!」

 綿あめとかき氷を持って、龍牙を見詰める。
 龍牙の目が俺に向いた。

「なんで、俺を見てんの? 景品、見ないの?」

 ちょっと呆れたように龍牙が呟いた。

「あ、そっか。思わず龍牙が撃つ姿ばっかり見ちゃった」

 俺は景品の竜のぬいぐるみに目を向けた。

「そういうこと言われると、本気出したくなるじゃん」

 龍牙が体を低くして腕を伸ばした。
 パンと空気が割れる音がして、ぬいぐるみが動いた。

「惜しい! もうちょっと!」
「次で取る」

 球を籠めて、さっきと同じ体勢になる。
 狙いを定めて、最後の玉を撃った。
 パンと空気が弾けた音と共に、竜のぬいぐるみが落ちた。

「やった!」

 俺はその場でぴょんぴょん飛び上がった。

「兄ちゃん、上手いな。リーチがあるもんなぁ、はいよ」

 的屋のおじさんが、景品のぬいぐるみを龍牙に渡してくれた。

「龍牙、凄い! 格好良い!」
「今日は褒めすぎ」

 龍牙が嬉しそうに笑った。
 竜のぬいを龍牙から受け取る。
 ぬいぐるみを渡したその手で、俺の頭を撫でた。
 かっと、顔が熱くなるのを感じた。

(え……? あれ?)

 恥ずかしいのか、嬉しいのか、よくわからない。
 顔が熱いのだけは、わかる。

「あとは……ヨーヨー釣りと、イカ焼き?」
「……うん」

 俺の手から綿あめを受け取ると、龍牙が歩き出した。
 心臓が、少しずつ鼓動を早める。
 どうしてかわからなくて、俺は俯いた。

「そうだ」

 龍牙が、振り返った。
 手を伸ばして、俺の手を握った。
 
「人が増えてきたから、はぐれないように」

 そういった龍牙の顔は、ちょっと照れていた。
 つられて、照れた心持になる。

「……うん」

 手を握られるのは嫌ではなくて、そのままでいた。
 夜の暗さに紛れた龍牙の耳が、ほんのり赤く染まっている気がした。

 俺は、握ってくれた手を、そっと握り返した。