放課後アクスタ部(部員二名)

 八月も半分が過ぎた。
 アクスタも、十二支の内、(ウマ)まで完成した。
 でも今日は、アクスタは一旦休憩だ。

「浴衣じゃなくてもいいよぉ」

 着付けられながら、俺はぼやいた。

「ダメだよ、お兄ちゃん。今日は夏祭りデートじゃん! お洒落していかなきゃじゃん!」

 妹の美兎が鼻息荒く息巻く。

「デートじゃない。二人で遊びに行くだけ」

 美兎はどうしても龍牙を俺の彼氏にしたいようだ。

「たまに着てくれたほうが、虫干するよりいいのよねぇ」

 母さんがそういうことを言うと、嫌だと言いづらくなる。

「別に、着るくらいは、いいけどさ」

 仕方がないから受け入れる。
 美兎と母さんが顔を見合わせて笑んだ。

(仕方なく着るだけだから! でも……)

 龍牙はどう思うんだろう。
 それはちょっとだけ、気になった。
 あくまで、ちょっとだけ。

「遅くなるようなら、龍牙くんもうちに泊まりなさい」
「わかった。龍牙に言ってみる。じゃ、行ってきまーす」

 まだ明るい、夏の夕暮れ。
 俺は家を出て、待ち合わせの神社に向かった。

 十二支神社の前にはちらほらと人がいた。
 でも、すぐに分かった。
 金髪でピアスバチバチの男が浴衣を着て立っている。

(めっちゃ目立ってんじゃん。視線集めまくってんじゃん)

 龍牙は気にしてなさそうだけど、周囲の女子たちが龍牙をめっちゃ見ている。
 声を掛けるか悩んでいたら、龍牙が俺に気付いた。

「透馬!」

 いい笑顔で龍牙が手を振っている。
 俺は観念して龍牙に駆け寄った。

「待たせて、ごめん」
「さっき来たばっか。待ってない」

 龍牙がまじまじと俺を眺めた。

「浴衣、似合うね」
「龍牙のほうが似合ってる」

 思わず言い返した。

「いや、俺のは、母さんが無理矢理さ」
「お母さん?」
「うん。夏祭りに行くって言ったら、着付けられた」
「そうなんだ。渋くていいじゃん」

 柿渋と紺の大人っぽい浴衣だ。
 何というか、歌舞伎役者みたいだ。
 しかも着こなしている。さすがイケメンだ。

「色々、気にし過ぎっていうか。うち、片親だけど。そういう負い目みたいの、俺に感じさせたくないみたいで」
「……そっか」

 龍牙は家族の話を自分からあまりしない。
 俺からもあまり振らない。
 だから、こういう話は珍しい。

「めっちゃ格好良い。お母さん、センスいい」

 俺は思ったことをそのまま口にした。

「大人っぽい浴衣なのに、ちゃんと似合ってるの、すげぇ」
「……褒めすぎ。透馬のほうが似合っていて、可愛いよ」

 龍牙が完全に照れた顔をしている。
 ちょっと嬉しくなった。

「可愛いって何だよ。せめて、格好良いと言え」
「透馬は格好良いより、可愛いだろ」
「褒めてないだろ」
「全力で褒めてる」

 何となく見詰め合ったら、笑いが零れた。

「ふふ」
「あはは」

 二人で顔を見合わせて笑った。

「境内のほう、行ってみようよ。そろそろ、出店が始まる」
「うん、行こう」

 俺たちは並んで歩き出した。
 鳥居の前で頭を下げて、境内に続く階段を上る。
 階段の上は長い参道で、道に沿って出店が並んでいた。

「うわぁ、祭りって感じだぁ」

 暗くなり始めた神社に出店の灯りが一つ、二つと灯る。
 微かに聞こえる虫の鳴き声が、祭りの幻想的な夕暮れを演出している。

「こういう雰囲気、良いなぁ」
「うん、好き」

 龍牙が俺を見て笑んだ。
 トクン、と心臓が少しだけ跳ねた。

(最近の龍牙は、よく笑う。可愛い)

 そう、可愛いのは龍牙のほうだ。
 今日は浴衣のせいか、いつもよりイケメンに見える。

「透馬、あの綿あめ、変わってる」
「どれどれ……あ! レインボー綿あめ!」
「レインボー?」
「十二支神社のお祭りの綿あめは袋に入ってるのじゃなくて、おじさんが棒に七色の綿あめを絡めてくれるんだよ」
「それ、楽しそう」
「買おう!」

 俺は龍牙の手を掴んで走り出した。

「めちゃめちゃデカいから、二人で一個にしよう。他にも色々食べたいし」
「……うん」

 小さな声で返事して、龍牙が俺の手を握り返した。
 しっかり手を繋いで、俺たちはレインボー綿あめに走った。