放課後アクスタ部(部員二名)

 八月に入って、一週間ほどが過ぎた。
 (ネズミ)から作り始めたイラストは、順々に描いていき、(ウサギ)まで辿り着いた。
 一日一個、ゆっくりと描いている感じだ。
 途中に台座やバックの絵柄相談なんかもしている。そう考えると進みは速いと思う。

(土日は休みにしてるけど。俺は家でちょっと描いたりしてるんだよね)

 決めないと二人とも毎日、学校に来るから、土日は休みと決めた。
 特に龍牙はバイトもしているから、休ませないといけない。

「透馬、今日は俺、早めに帰る。バイトがいつもより早入りなんだ」
「そうなの? だったら今日、部活なしにしても良かったのに」

 無理しなくても、文化祭まではまだ時間がある。
 絵の進みも早いから、焦る必要はない。

「部活なかったら、バイト頑張れねぇ」
「え?」
「一人で家にいても、絵を描いてると思うから。透馬と一緒に描くほうが楽しい」
「そっ……か」

 同じことを考えていた。
 そう思っただけで、鼓動がトクトクと早くなった。

(龍牙も、俺と一緒のほうが楽しいんだ)

 勝手に走る鼓動を、どうしたら抑えられるのがわからない。
 困っていたら、龍牙が立ち上がった。

「片付け、できなくてごめん」
「全然いいよ。バイト頑張って」
「ありがと」

 龍牙が手を振って部屋を出て行った。
 片付けと言っても、鍵を職員室に返す程度だ。
 
 龍牙が帰ってから一時間くらいラフを仕上げて、顔を上げた。

「俺も、そろそろ帰ろうかな」

 絵を描くのは楽しいけど、一人だと何となく乗らない。
 スケブを仕舞って、立ち上がった。
 一応、机と椅子を整頓する。

「あれ?」

 龍牙が座っていた椅子の下に財布が落ちていた。

「これ、龍牙のかな?」

 預かっておいて、明日渡せばいい。
 そう思ったけれど。

「ないと、困るかな」

 俺は龍牙の財布を鞄に仕舞い込んだ。
 美術準備室の鍵を職員室に返すと、学校を飛び出した。

 俺の家は翔陽高校から徒歩圏内だ。
 だから、自転車通学だけど。
 龍牙の家は、最寄り駅から三駅先だ。

(確か、駅チカのコンビニでバイトしてるって言っていた気がする)

 行ってみればわかるだろう。
 そう思って電車に乗った。

(別に、バイトしてる姿を見てみたいとか、龍牙がいるコンビニで買い物してみたいとか、思ってないけど)

 財布がないと、きっと困るだろうから。
 スマホと交通ICカードがあればなんとかなる気もするけど、きっと困る。
 そういうことにしておく。

 駅を降りると、すぐにコンビニがあった。
 大きな駅ではないから、ここで間違いなさそうだ。
 俺は外側からコンビニの中を覗き込んだ。

(龍牙っぽい人、いない。中に入ってみようかな)

 仕事している龍牙の姿を、懸命に探す。
 コンビニの入口をウロウロしながら、店の中に入るか迷った。
 何となく裏側のほうに回ってみたら、声が聞こえた。

「待って、平野くん……きゃっ」

 女の人の声が聞こえて、思わず覗き込んだ。

「大丈夫ですか?」

 覗き込んだその光景に、ドキリと心臓が跳ね上がった。
 こちらに背を向けた龍牙に抱き付く、若い女性が見えたからだ。

(転びそうになったから、とか? きっとそれだけ……)

 そう思ったのに、女の人の腕が龍牙の体に絡まった。

「ありがと」
「はい」

 そのまま二人は、抱き合っていた。

(何で……何で振り払わないの。せめて、手を離して)

 抱き合う二人を見ていられなくて、目を逸らした。
 俺は、走ってその場から逃げた。

(抱き合っているくらい、親密な関係……なの? 恋人、とか)

 頭の中に浮かび上がった言葉に、ぞっとした。
 龍牙に恋人がいるなんて話、聞いていない。

「俺にくらい、話してくれたって、いいのに」

 高校生なんだから、恋人がいたっておかしくないのだから。
 同じ部活の俺には打ち明けてくれたっていい。

「恋人がいるならいるって、教えてくれたらよかったのに」

 ポロっと涙が零れた。
 内緒にされたから悲しくなったんだろうか。
 いや、きっとそうじゃない。

「俺より仲いい奴なんか、作るなよ」

 どうしようもなく醜くて身勝手な本音が、口から零れた。
 情けなくて悲しくて、この気持ちをどうしたらいいかも、わからなくて。
 俺はその場にしゃがみこんで、声を殺して泣いた。