放課後アクスタ部(部員二名)

 七月最後の日、俺と龍牙はポスターを持って文化祭実行委員室を訪れていた。
 実行委員長の三年生、小関癸亥(みずい)先輩が、俺たちの描いた絵にじっくりと見入った。

「うん、いいね」

 二枚の絵を見比べる。

「甲乙付け難いよ。現時点では、二枚とも預かりたい。いいかな」
「勿論です。よろしくお願いします」

 俺は深々と頭を下げた。

「ところで、小耳に挟んだのだけど。イラスト同好会の峰岸に、嫌がらせをされたとか」
「え! いや、それは……」

 一体、どこから漏れたのだろう。
 虎徹先生にも話していないし、あの場にいた生徒しか知らないはずだ。

「今の二人の反応で大体、わかったよ」

 俺は龍牙と目を合わせた。
 俺はちょっとアタアタしちゃったかもしれないけど、龍牙は普段通りだったのに。
 小関先輩には何かがわかったらしい。

「深く追求する気はないんだ。ただ……そうだね。低能な人間との会話は苦手、とだけ伝えておこうかな」

 とんでもない悪口を言ったように聞こえた。
 誰に向けて言っているのか、よくわからない。

「何となくわかりました」

 龍牙がそう言って、ぺこりと軽く頭を下げた。

「それじゃ、ポスターは有難く預からせてもらうね。メインポスターに選ばれたら特賞が出るから、連絡するよ」
「わかりました」
 
 俺たちは促されるまま、部屋を出た。

「小関先輩って、怖い人?」

 思わず、龍牙に問い掛けた。

「ある意味怖いけど、俺たちにとっては良い人。今のところ」

 龍牙が考えながら、そう教えてくれた。
 俺たちにとって良い人って龍牙が言うなら、信じよう。

「ポスター、間に合って良かったね」
「うん、よかった」
「エナドリで乾杯しよう!」
「賛成。俺、モンエナ」
「俺も」

 そんな話をしながら昇降口に向かって歩いていたら、夏祭りの張り紙を見付けた。

「そういえば、夏祭りかぁ」

 翔陽高校の辺りは俺の地元だから、子供の頃から馴染みがある。
 十二支神社を中心に出店が出て、最終日には花火大会もある。
 ソコソコ大規模なお祭りだ。

「この辺の祭り?」

 立ち止まった俺の隣で、龍牙が張り紙を覗き込んだ。

「そうそう、地元のお祭り。八月の中旬頃に、いつもやってるんだ」
「へぇ、祭りって行ったことねぇなぁ」
「そうなの? 子供の頃とかも?」
「母さん、忙しくて。金もなかったから、中学の時もいかなかったな」
「そっか……」

 聞いてはいけないことを聞いたかもしれない。
 龍牙は何でもないことのように話してくれるけど。
 ちょっと胸が痛い。
 
「じゃあさ、今年、俺と行かない?」

 思い切って、誘ってみた。
 龍牙が、ぼんやりと俺を眺めた。

「一緒に、行ってくれんの?」
「うん。龍牙と夏祭り、行きたい」

 俺だって、夏祭りに行くのは子供の頃以来だ。
 久々だけど、龍牙とだったらきっと楽しい。

「金なかったら、俺が奢るし! 色々助けてもらってるから、お礼に」
「いや、今は金ある。バイトしてるし」
「そっか」

 俺は上目遣いに龍牙を見詰めた。
 改めてみると、龍牙は背が高い。俺より十センチは高そうだ。
 龍牙が、ごくりと息を飲んだ。

「……行こうか、夏祭り。俺も、透馬と行きたい」

 龍牙の手が伸びてきた。
 
「うん! 行こう!」

 嬉しくなって、俺は満面の笑みで頷いた。
 伸びてきた龍牙の手が、中途半端に止まった。
 何に触れるでもなく、すっと戻った。

「龍牙?」
「何でもない。楽しみだな。俺、初めての夏祭りだ」
「俺が案内するよ。花火大会がある最終日に行こう! あ、バイト大丈夫?」
「さすがに休みもらう。シフト交換、何回かしてるし、平気」
「そっか、良かったぁ」

 俺は龍牙の手を握った。
 子供の頃、美兎と手を繋いだ時みたいに、ブンブン振った。
 今から夏祭りが、かなり楽しみだ。

「え!」

 龍牙が、普段からは考えられないような大声で驚いた。

「ん? どした?」
「どうって、手……いや、何でもない」

 龍牙が手を握り返してくれた。耳がちょっとだけ赤い。
 子供みたいで恥ずかしいだろうか。

「かき氷はマストで、綿あめとイカ焼き、食う。そんで、ヨーヨー釣りやろう」
「射的は?」
「やる! お面、買おう」

 話していたら、ワクワクが膨らんできた。
 逸る気持ちを繋ぐ手に乗せてブンブン振りながら、コンビニまでの帰り道を歩いた。