放課後アクスタ部(部員二名)

 火曜日の放課後。
 龍牙があんぐりと口を開けて呆けていた。

「どうだ、龍牙! どっちも良い出来だろう」

 二枚のポスターを広げて、俺は胸を張った。
 龍牙がゆっくりと眉間を抑えた。

「やべぇやべぇ神絵師が俺を殺しに来るやべぇよ」

 ブツブツと何かを呟いている。

「虎徹先生は一枚目が良いって言うんだけどさ。龍牙は、どっちがいい?」

 線画を描いても、やっぱり虎徹先生は上からのアングル推しだった。
 今は職員会議で職員室に戻っている。

「こっち。絶対こっち」

 龍牙が三枚目の絵を指さした。

「やっぱ、そうだよな。俺もこっちが良いと思うんだけどさ」

 友人たちの元に駆け寄る男の子の視線で、前を歩く友達三人を描いている。
 三人の友人は、追いかけてくる男の子に向かって手を振ったり、手を差し伸べたり、笑顔で迎えたりしている。

「悪くないけど、文化祭の絵にはちょっと大人しいんじゃないかってさ」

 確かに一枚目の絵は、空に輝く太陽モチーフに向かって皆で手を伸ばしている。
 顔もアップにできる分、笑顔もよく見えるから、印象としては明るい。

「一枚目は、こう……未来を掴みに行く感じが、明るくて良いんだって」
「如何にも教師って感じの意見だ」

 何の感慨もなく、龍牙が呟いた。

「ちなみに下からのアングルは没だって」

 スケブに軽く線を入れた絵を見せる。

「あぁ……透馬の絵柄だと上手すぎてエロい」

 何となく思っていたことをはっきり言われた。
 ちょっと気まずい。

「だから、二枚とも色塗って文化祭実行委員に出してみたらどうかって言われた」
「二枚も出せるの?」
「実行委員に良いほうを選んでもらえばいいってさ」
「なる」

 俺は水彩絵の具や色鉛筆を取り出した。

「で、一人一枚ずつ色塗りしたいと思うんだけど、どっちがいい?」
「……俺も塗っていいの?」

 龍牙が驚いた顔をしている。

「いいの、じゃなくて。龍牙だってアクスタ部だろ。一枚ずつ塗ろうよ。龍牙は色塗り、俺より上手いし」
「そんなに上手くない。そもそもデジタルじゃねぇと、あんまり」
「あー、そっか。そういうのはあるよな」

 デジタルとアナログじゃ、勝手が全く違う。
 デジタルからイラストを始めた人間は、アナログの色塗りが辛い。

「でも、やらないはナシだからな。水彩画とか、美術の授業で習うじゃん」
「そうだけど。俺が塗ると全体的に暗くなる」
「ふぅん、なるほどねぇ」

 俺は二枚の絵を見比べた。

「んじゃ、三枚目……振り向く絵のほう、龍牙が塗ってよ」
「えぇ! こっちのが本命なのに?」

 龍牙がビクビクと絵から離れた。
 離れようとする龍牙の腕を掴んで引き寄せる。

「一枚目の太陽モチーフのが、全体的に明るいじゃん。俺、美術部で水彩画描いていたし、慣れているから、こっち塗る」
「マジか……」

 龍牙が頭を抱えている。

「逆がいい?」
「もっと困る」

 頭を抱えたまま、龍牙が答えた。

「両方、俺が塗ってもいいけどさ。ちょっと残念だな。俺、龍牙の色塗り、好きだから。この絵で龍牙の色、見たいな」

 龍牙が、ぱっと顔を上げた。
 感動している時の顔だ。目がキラキラしている。

「透馬が、そう言うなら、塗る」

 龍牙が拳を握って、意を決した顔をした。

「マジ? やった。ありがとな、龍牙」

 龍牙の手に水彩用の筆を握らせると、その手を握った。

「二人で頑張ろう。今月中にポスター仕上げて、その後はアクスタ作りだ」
「やべぇ。透馬とまだまだ絵が描けるじゃん」
「むしろアクスタが本番だろ」

 文化祭で頒布するモノがなければ、同好会の活動が白紙になる。
 
「そうだよな……うわぁ。俺、今、透馬と絵を描いてるんだ。すげぇ」

 思い出したように龍牙が呟いた。
 龍牙は時々、俺を神と崇めるモードに入る。そういう時はやりづらい。

「そろそろ、慣れよう。俺、そんな大した絵描きじゃないから」

 小さな声で指摘してみる。
 龍牙が、フルフルと首を振った。

「俺、アクスタ部に入れてよかった。一生二人でアクスタ部がいい」

 龍牙が俺の手を強く握り返した。
 驚いたけど、力が強くて逃げられない。
 見上げた龍牙の笑顔が、とても柔らかくて綺麗だった。
 その顔を見ていたら、握られた手はそのままでもいい気になった。