放課後アクスタ部(部員二名)

 部屋に戻って来てからも、龍牙はずっとアクキーを眺めていた。

「これ、ピアスにしたい」

 耳に翳して見せる。

「いやいや、重いしデカすぎだろ」
「そっか、えへへ」

 龍牙が笑った。
 目はまだ赤くて、ちょっとだけ腫れているけれど、表情はすっきりしている。

「アクキー、綺麗にできたよな」

 龍牙の手の中の絵を覗き込む。
 いつもと構図を変えているせいか、違う絵みたいに見える。

「俺も、今回は割とはっきり目にカラーしたけど、淡い色で可愛くもやってみてぇな」

 自分が書いた可愛い龍を眺めて、龍牙が満足そうな顔をした。

「また、作るか」
「またって、アクキー?」
「うん。部活にするなら、活動しないとだし。次は二人でアクスタ、作ってみる?」
「マジ? めっちゃ作りてぇんだけど」

 俺はスケブを取り出した。

「アクスタ部、活動内容っと」

 サラサラと書いていく。

「とりあえずは文化祭で模擬店出せたらいいよな」
「売れるようなアクスタ?」
「そうそう。可愛い系が無難かな。格好良いは意見、分かれやすい」

 龍牙が自分のアクキーを指さした。

「俺の可愛い龍とか、透馬の可愛い馬とかじゃね?」
「動物か。まぁ、妥当だよな」
「動物っつーか、干支、どうよ?」
「干支か」

 俺はスケブに鼠、牛、虎と簡単なラフを描いていった。

「干支なら、誰でも一個は自分のがあるし、気になるんじゃね。デフォルメして可愛いアクスタ、作り易い」
「いいなぁ、動物ってキャラ化しやすいもんな」

 スケブにキャラを描いていくうちに、乗ってきた。

「何個か作ってさ、そのうち一つをホロ加工して当たりにすんの、よくね?」
「なにそれ、プロっぽい。じゃ、見本置いて、残りはランダム?」
「干支全部ランダムはエグいよな。ホロだけランダムなら、欲しい動物のアクスタは最低でも買える」
「いいね。個包装なら特別感ある」

 出たアイディアを絵と一緒に書き留めていく。

「なんか、できそうな気がしてきた」

 かなり楽しくなってきた。

「また、龍牙が構図考えてさ、俺が線画描いて、二人で色塗りしたら、作れそうじゃね?」
「うん、いける」

 龍牙が、出来上がったばかりのアクキーを見詰めた。

「けど、さすがに身内だからってタダでお願いできる数じゃなくなるよな」
「まぁ、そうだね。割引してもらうけど、そこそこ金掛かると思って」

 部活なら、こういうのは部費で賄える。
 同好会には部費がない。部員同士が出し合うしかない。

「今から貯めとく。アクスタ部やりてぇし、バイト増やすのは嫌だから」

 龍牙がアクキーを握り締めた。
 
「俺、高校生活で今が一番楽しい」

 龍牙が俺を振り返って、笑った。
 その笑顔を見ていたら、どうしてか胸がトクンと小さく跳ねた。

 結局、アクキーやアクスタ部の話をしていたら、文化祭のポスターについて話し合うのをすっかり忘れていた。

「ポスターが一番、〆切マストなのに」
「仕方ねぇよ。火曜日から頑張ろう」

 明日の月曜日は龍牙がバイトだから、進められない。
 日が暮れ始めた空の下、龍牙を駅まで送った。

「気をつけて」
「うん、ありがとな。家族の皆様にも、よろしく」

 龍牙が手を振って改札に向かう。
 見た目はヤンキーっぽいのに、礼儀とか言葉遣いとか、しっかりしている。
 きっと気を付けているんだろう。

(お母さんと、二人だから)

 理由があった訳じゃない。
 気が付いたら飛び出して、その腕を掴んでいた。

「どした?」

 龍牙が驚いた顔で俺を振り返った。

「今度、夕飯食べに来なよ。何なら、泊まりに来い。バイト終わって、そのまま来ても、いいから!」

 そういうことを言おうと思っていたわけでもなかった。
 ただ、このまま龍牙を一人の家に帰したくなかった。

「ありがと。今度、お邪魔するよ」
「うん……絶対、来いよな」

 泊まりに来れば、文化祭のポスター案だって一緒に詰められる。
 干支のアクスタだって、アイディアを出し合える。
 今の俺たちには、時間なんかいくらあったって、足りないんだ。
 だから、まだ帰したくないとか、一緒にいたいとか思うのは、普通なんだ。

「俺、さ……透馬と友達になれて、良かったよ」
「え……?」
「じゃ、な」

 さっと前を向いて、龍牙が早足で改札を抜けた。
 その耳が、赤くなっているの見えた。

「照れてんの、まるわかり」

 改札の向こうで、もう聴こえない背中に声を飛ばす。
 でも、同じなんだ。俺の耳も、熱かったから。

「俺も、友達になれて、良かった」

 電車がホームに入ってくる。
 見えなくなった背中は、あの電車に乗ったのだろう。
 俺は電車が見えなくなるまで、龍牙を見送った。