死者を救う試練で、初恋の騎士は眠れぬ番犬になっていた ~エルディーテの冥界追想録~

新しい婚約者というのは本当のことだろう。なぜならローゼがセムセイと結婚しないことをエルディーテは知っている。

そして二十年後、彼女の実家であるコールマン伯爵家とグラウス公爵家は疎遠になっている。

革新を求めるグラウス家に対し、上位貴族を中心とした保守派に属するコールマン家。

元々コールマン家は中立派であったが、しかし今や完全に保守派へと移り変わっていた。

「今言ったことが全て本当だとは信じられません。あなたは嘘をつく時に視線が僅かに右上へ向く」

セムセイはローゼの言葉を受け止めたあと、眉尻を歪め告げた。

「動揺した時は何時もより瞬きが長く、嬉しい時は瞳の輝きが微かに増す。あなたは淑女の鏡ですが、どれほど努力して感情を抑えているか私は知っているつもりです」

ローゼは押し黙ったままだった。

「何かあるのでしょう?私が打ち明けてもらえるのを待っていたことは、あなただって気付いていたはず。求婚すれば私の覚悟が伝わると信じてましたが、別れるなんて……納得できるわけがない。教えてくださいローゼ。力になりたい……私はそんなにも頼りないですか?」

「セムセイ……」

「伯爵夫妻も私達の事を認めてくださっていたのに、何故ですかっ……」

この時、セムセイの瞳はローゼだけを映していた。
傍目から見ても分かる。この人は心の底からローゼを愛しているのだ。

しかし乾いた声はセムセイを否定した。

「もう飽きたのよ……」

それはローゼの隙のない横顔に似合わない言葉だった。

「……ディートさんですか?」
「っ……」

「あなたの表情に影が差すようになったのは彼が入団してからです……何があったのですか?」

思いがけない名がセムセイの口から零れ、執念深いその問いかけは一瞬だけローゼの表情に明らかな動揺を浮びあがらせていた。

「一体なんのことかしら……妄想も甚だしいわ」
「教えてください」

セムセイの真剣な眼差しから逃れようとローゼは顔を俯けたが、震える声は隠しきれていなかった。