死者を救う試練で、初恋の騎士は眠れぬ番犬になっていた ~エルディーテの冥界追想録~

『この不純物がっ!!』

ユーク・グラウスがレイヴン家の異質に気付いたきっかけは、その言葉だった。

その日行われたのは、父親と懇意にしている伯爵家が主催する鷹狩り。

当時ユークは十四歳だった。

主催の伯爵家に上流貴族や有力者が招かれ、いつも通りつつがなく出陣の準備が進められていた最中、ふと気付いてしまったのだ。レイヴン公爵家の嫡男であるアランと、その兄弟らの姿が見当たらない。

同年のアランからは何かと目の敵にされており、さして親しい間柄ではなく、父親からもあの家は相手にするなと言われている。
しかし既に準備を終えようとしている大人たちの様子を見ると、気付いていながら何もしないのはどうかと思い探すことにした。

なにせ父や伯爵家の使用人に知らせれば、アランの性格を考えると巡り巡って角が立つ。かといって待っていれば出陣が遅れる可能性が高い。
今から探して見つければ、子供同士の間で完結し大人に迷惑がかからないはずだ。と、そのような結論に達したからだ。

結果、彼らは直ぐに見つかった。

人気のない場所を優先して探していれば、伯爵邸の庭の隅にアランと次男のティールの姿があった。

まったく悠長なことをしてくれる。

アランもティールも普段から勝手な行動が目立つうえに、あまり良い噂がない。

もしかして”また”他家の使用人をいびっているのではないか、そんなことすら考えながら、二人の背に近付いてゆけば、三男レニーも兄達と対面するようにそこに居た。

三男のレニーは、父親似の上の兄弟と違って線が細く、絵画の天使が抜け出したように美麗で存在感のある少年だ。彼については実のところ多くを知らない。

今回は狩自体には同行しないものの、他家の子供らとの交流を目的に連れて来られていたはずだったが、なぜ出陣前の兄達と一緒にいるのだろうか。

近づくにつれ彼らの会話の内容が明らかになり、ユークは立ち止まって眉間に皺を刻んだ。

どうやらレニーは上の兄弟らに言いがかりをつけられていたようだった。

「レニーのくせに、一丁前に色気付きやがって」

「違いますっ……話しかけられたから答えただけです……すみません……」

「話しかけられたからぁ?はっ、またそうやってお前は。アマーリエ嬢がお前のことばかり聞いてくるんだ、どうせ同情を買って気を引こうとしていたんだろ」

アマーリエは主催の伯爵家の令嬢だ。

ここに来てから一人になりがちなレニーを何かと気遣って話しかけている姿は知っている。

ユークの目から見て、主催という立場故に孤立しがちなゲストをもてなしているだけに映っていたが、アラン達は違うように捉えていたらしい。

レニーは体格の良い兄らに対し委縮してもごもごと呟いた。

そんなに兄達が怖いのか。天使の見た目に、中身はまるで臆病な雛鳥といったところだ。

「してません……というか、その……」

「はぁ?なんだ、はっきり言えよ」

気に障ったのかアランが声を荒げる。

すると驚くべきことに、レニーは肩を震わせ声を裏返らせながらも兄達に対し言ってのけた。

「だ、だからそのっ!ぼ、僕が連れてこられたのって他家と関わりを持つためですよね!?それなのに話しちゃダメなんですかっ!?主催の伯爵家にも無礼だと思います!」

レニーの足元は震えており必死に言い返したといった感じだった。

見てはいけないものを見てしまった気まずさに、ユークは完全に出ていくタイミングを失っていた。

公の場でレイヴン家の関係は至って良好に見えていたが、実際は違うのかもしれない。

交流を名目に幼い子息を連れ出す家が多い中、三大公爵家であるにも関わらずレイヴン家はレニーをあまり公の場に出さなかった。その理由の鱗片が今、目の前にある。

しかし疑問は余計に深まるばかりだ。
男性的な骨格の太さが目立つアラン達に対してレニーはかなり中性的だが、彼らは兄弟のはずだ。

だというのに彼らの間には明らかに壁があり、アランとティールの二人はレニーを恫喝し委縮させていた。