『君はもう私の弟子じゃない。もう師匠などと呼ばないでくれ』
苦汁を飲むような面持ちで告げられた言葉だった。
なぜあの人がそんな顔をしたのか……寧ろ悔しい思いをしていたのは自分の方だというのに。
理解が到底及ばずレニーは何年経ってもユークの言葉を忘れられないでいる。まるで重い鉛の足枷でも付けられたかの如く、あの時代に繋ぎ留められ続けているのだ。
「――団長、レイヴン団長」
部下の呼びかけにはっとして視線を上げると、バロン・ガレナが「続けてよろしいですか?」と尋ねた。
執務室にて、つい先ほどバロンは神域に冥界と繋がる場所があると報告をあげてきていた。
「あぁ……エルディーテの行方は神域だって?」
「はい。地方から伝播してきた噂で最近になって酒場で話題にあがる程度のものですが」
「……酒場か……下賎な噂話を鵜呑みにしたと」
「エルディーテは普段から達観したように振る舞っていますが本質的には短気ですからね。短絡的に曖昧な情報を追って出奔した可能性は十分あり得ますよ」
言ってバロンは薄く笑った。しかしレニーが眦を上げると敏感に反応し表情を引き締める。
「お前にはエルディーテの行動原理が分かると……よく視線で追っているそうだな?」
この男、最近のバロン・ガレナは子爵家の分際で余計なものいいが目立つようになった。
レニーが表立って動けない調査など面倒ごとを押し付けているから、というのもあるだろうが、先ほどの発言は違う。自分はエルディーテをよく分かっていると自負するような言葉だった。
「……いいえ。団長が気にかけておられるので、自分も何かあった際にすぐ報告出来るよう気を付けていたまでです」
「そうか」
「はい。また規律違反に近い行動をされては団長の手を煩わせますので」
粛々と述べるバロンの言葉にレニーは僅かに乾いた笑みを漏らした。
分かっているならいいのだ。
子爵家の分際で付け上がった行動をとるのは身の丈知らずというもの。
バロンはエルディーテの窮地に機転を利かせ、レニーを現場に呼び出した功績があるため有用してやっているだけの駒に過ぎない。
いつだったか、規律違反に抵触するほどの暴力騒ぎをエルディーテが起こした際、『妙な気を起こす者が繰り返しエルディーテに迫っていたため半殺しされた。当然の報いだ』と相手の男に非があることを先陣きってバロンは証言した。
その行動力と迎合すべき相手を見極められる頭の良さは評価している。が、過分な野心を抱くようでは今後の処遇も考えなければならない。まだしばらくは大丈夫だろうが。
そんなことを脳裏で巡らせながらレニーは頷いた。
「そうだな。お前は立場をよく理解している。今回の件も迅速な動きをしてくれた」
「勿体ない言葉です」
恭しく礼を見せる姿に対し、レニーはそれを一瞥して密かに鼻で笑う。
苦汁を飲むような面持ちで告げられた言葉だった。
なぜあの人がそんな顔をしたのか……寧ろ悔しい思いをしていたのは自分の方だというのに。
理解が到底及ばずレニーは何年経ってもユークの言葉を忘れられないでいる。まるで重い鉛の足枷でも付けられたかの如く、あの時代に繋ぎ留められ続けているのだ。
「――団長、レイヴン団長」
部下の呼びかけにはっとして視線を上げると、バロン・ガレナが「続けてよろしいですか?」と尋ねた。
執務室にて、つい先ほどバロンは神域に冥界と繋がる場所があると報告をあげてきていた。
「あぁ……エルディーテの行方は神域だって?」
「はい。地方から伝播してきた噂で最近になって酒場で話題にあがる程度のものですが」
「……酒場か……下賎な噂話を鵜呑みにしたと」
「エルディーテは普段から達観したように振る舞っていますが本質的には短気ですからね。短絡的に曖昧な情報を追って出奔した可能性は十分あり得ますよ」
言ってバロンは薄く笑った。しかしレニーが眦を上げると敏感に反応し表情を引き締める。
「お前にはエルディーテの行動原理が分かると……よく視線で追っているそうだな?」
この男、最近のバロン・ガレナは子爵家の分際で余計なものいいが目立つようになった。
レニーが表立って動けない調査など面倒ごとを押し付けているから、というのもあるだろうが、先ほどの発言は違う。自分はエルディーテをよく分かっていると自負するような言葉だった。
「……いいえ。団長が気にかけておられるので、自分も何かあった際にすぐ報告出来るよう気を付けていたまでです」
「そうか」
「はい。また規律違反に近い行動をされては団長の手を煩わせますので」
粛々と述べるバロンの言葉にレニーは僅かに乾いた笑みを漏らした。
分かっているならいいのだ。
子爵家の分際で付け上がった行動をとるのは身の丈知らずというもの。
バロンはエルディーテの窮地に機転を利かせ、レニーを現場に呼び出した功績があるため有用してやっているだけの駒に過ぎない。
いつだったか、規律違反に抵触するほどの暴力騒ぎをエルディーテが起こした際、『妙な気を起こす者が繰り返しエルディーテに迫っていたため半殺しされた。当然の報いだ』と相手の男に非があることを先陣きってバロンは証言した。
その行動力と迎合すべき相手を見極められる頭の良さは評価している。が、過分な野心を抱くようでは今後の処遇も考えなければならない。まだしばらくは大丈夫だろうが。
そんなことを脳裏で巡らせながらレニーは頷いた。
「そうだな。お前は立場をよく理解している。今回の件も迅速な動きをしてくれた」
「勿体ない言葉です」
恭しく礼を見せる姿に対し、レニーはそれを一瞥して密かに鼻で笑う。



