エルディーテが次に目にしたのは街を歩く非番らしきオルディスの姿だった。
日が傾きかけた夕暮れ時。王都から少し離れた場所とはいえ、その街並みは王都に似た雰囲気を持つ都会的な地域で店舗数も多く、行き交う人の数はこの時間でもそれなりに賑わっていた。
その通行人らに混じって、沈んでゆく太陽さえも飲み込んでしまいそうなオルディスの黒髪が揺れている。
一瞬、火の手が上がる壮絶な夜の記憶と重なってエルディーテは思わず顔を歪めた。
赤髪のオルディスを少年時代から追って、時折感じてきた既視感がようやく幼い記憶と一致した。
気のせいだと決めつけていたが、そうではなかったのだ。オルディスはエルディーテの記憶の深いところに眠っていた人物と同一人物だった。
グラウス家への潜伏のため黒に染めていた髪を、いつの頃だったか褒めたことがあったが、あれはどんな気持ちで受け取られていたのか今となっては後ろめたさを感じる。
今は試練の手掛かりとしてだけでなく、別の視点が生まれてしまい一挙一動が気にかかってしまい、オルディスがなぜあの夜に自分を庇ったのかその真相も知りたい。
とはいえ知ってどうなるというわけではないのだが。
しかしオルディスがディートという偽名を使って自分達に接触していたことは、迷いなく歩くオルディスを追随するための確かな追い風となっていた。
辿り着いたのは街の裏通りから入った先の小綺麗な屋敷だった。
貴族の屋敷といってもおかしくない外観だが、しかしそれを見てエルディーテは内心ぎょっとした。もしかすると顔にも出ていたかもしれない。
というのも屋敷に湯屋の紋章が掲げられていたからだ。そして入り口には用心棒らしき人間が立っている。
これは紛れもなく娼館である印。
さらに扉が開き丁度出てきた女性が男性を見送る姿があった。しかも露出度の高い赤いドレスから胸がこぼれ落ちそうで、エルディーテの足は思わず止まってしまう。
中級程度、もしくはやや上のそれなりに格式ある娼館だろうが……ーーまさかここに?
オルディスは慣れた様子で屋敷に近づいて男から声をかけられている。
そして何食わぬ顔で中に入っていった。
エルディーテは固まったまま屋敷を見上げた。
これはついて行っていいのだろうか……。
迷い、立ちすくんだまま考える。
――これまでオルディスを中心とした場面を何度も跨いできた。きっと全てに意味はあるはず……ならば今回も彼を追うべきだ。しかし、いいのか?と。
忙しなく頭の中で理屈と倫理がせめぎ合い、近づいては立ち止まりを繰り返すが、そうしているうちにオルディスは直ぐに出てきた。
その手には入る時にはなかった分厚い一冊の本。
見た目にも分かる程度にどこか苛々とした雰囲気を纏っていた。
屋敷を出たオルディスは来た時よりも少し足早に見えて、エルディーテはそういう意味で利用していたわけでないと小さな安堵を覚えながら後を追った。
オルディスは寄り道せず真っ直ぐグラウス家の別邸へと戻り、そのまま宿舎に向かった。
そこにはオルディスに声をかける幼い自分の姿があった。
日が傾きかけた夕暮れ時。王都から少し離れた場所とはいえ、その街並みは王都に似た雰囲気を持つ都会的な地域で店舗数も多く、行き交う人の数はこの時間でもそれなりに賑わっていた。
その通行人らに混じって、沈んでゆく太陽さえも飲み込んでしまいそうなオルディスの黒髪が揺れている。
一瞬、火の手が上がる壮絶な夜の記憶と重なってエルディーテは思わず顔を歪めた。
赤髪のオルディスを少年時代から追って、時折感じてきた既視感がようやく幼い記憶と一致した。
気のせいだと決めつけていたが、そうではなかったのだ。オルディスはエルディーテの記憶の深いところに眠っていた人物と同一人物だった。
グラウス家への潜伏のため黒に染めていた髪を、いつの頃だったか褒めたことがあったが、あれはどんな気持ちで受け取られていたのか今となっては後ろめたさを感じる。
今は試練の手掛かりとしてだけでなく、別の視点が生まれてしまい一挙一動が気にかかってしまい、オルディスがなぜあの夜に自分を庇ったのかその真相も知りたい。
とはいえ知ってどうなるというわけではないのだが。
しかしオルディスがディートという偽名を使って自分達に接触していたことは、迷いなく歩くオルディスを追随するための確かな追い風となっていた。
辿り着いたのは街の裏通りから入った先の小綺麗な屋敷だった。
貴族の屋敷といってもおかしくない外観だが、しかしそれを見てエルディーテは内心ぎょっとした。もしかすると顔にも出ていたかもしれない。
というのも屋敷に湯屋の紋章が掲げられていたからだ。そして入り口には用心棒らしき人間が立っている。
これは紛れもなく娼館である印。
さらに扉が開き丁度出てきた女性が男性を見送る姿があった。しかも露出度の高い赤いドレスから胸がこぼれ落ちそうで、エルディーテの足は思わず止まってしまう。
中級程度、もしくはやや上のそれなりに格式ある娼館だろうが……ーーまさかここに?
オルディスは慣れた様子で屋敷に近づいて男から声をかけられている。
そして何食わぬ顔で中に入っていった。
エルディーテは固まったまま屋敷を見上げた。
これはついて行っていいのだろうか……。
迷い、立ちすくんだまま考える。
――これまでオルディスを中心とした場面を何度も跨いできた。きっと全てに意味はあるはず……ならば今回も彼を追うべきだ。しかし、いいのか?と。
忙しなく頭の中で理屈と倫理がせめぎ合い、近づいては立ち止まりを繰り返すが、そうしているうちにオルディスは直ぐに出てきた。
その手には入る時にはなかった分厚い一冊の本。
見た目にも分かる程度にどこか苛々とした雰囲気を纏っていた。
屋敷を出たオルディスは来た時よりも少し足早に見えて、エルディーテはそういう意味で利用していたわけでないと小さな安堵を覚えながら後を追った。
オルディスは寄り道せず真っ直ぐグラウス家の別邸へと戻り、そのまま宿舎に向かった。
そこにはオルディスに声をかける幼い自分の姿があった。



