喪失騎士エルディーテの冥界追想録 〜 孤独な騎士の過去を辿る、運命を覆す相互救済ロマンス~

ユークが自分を訪ねたのは娘の所属が騎士団であるが故と心得ているが、内密の話と告げられ感極まっていた。
どうにかこれをきっかけに以前と変わらぬ扱いを受けたい。

「分かりました。私の方で手続きをしましょう。こちらからも捜索隊を出しましょうか?」

「いや、身内の事なので結構。休暇の件は無理を言いますが、娘の帰る場所を残しておきたいので手間をかけます」

形式的に断られレニーの心はいとも簡単に萎れてしまう。

立場上いつも使われる敬語や、”レイヴン団長殿”といった他人行儀な呼びかけは何年経っても堪える。

かつてユークとレニーは師弟関係にあり、以前はもっと気安い間柄だった。
呼ばれるたびに当時と比較してしまう。

今やユークから話しかけられるのは事務的な会話のみ。

――どうすればあの頃に戻れる?私は間違ったことをしていないのに、何故分かってくれないんだ。

レニーにとってユークは神格化された特別な存在。
傾倒し、崇拝していると言っても過言でない。

「グラウス宰相」

レニーは縋るように呼び止めた。

「……以前から何度か打診していた婚姻の件です。……もしも私がエルディーテを探し出せたら婚姻を認めていただきたい」

今や破綻した師弟関係だが、しかしレニーは諦めきれていなかった。
ユークにとってレニーは忌むべき存在となっているだろうが、それは誤解なのだ。

そう釈明したいと常々考えていたがこれまで機会がなかった。
最近になって部下であるエルディーテを使って繋がりを持とうと思いつき、何度も婚約の打診を送り続けたが断られ今に至る。

しかし失踪した娘を連れ帰ってみせればきっと頷くに違いない。
そう考えての発言だったが、しかしレニーの言葉に立ち止まったユークの視線は冷えていた。

「……問題はやはり私の年齢でしょうか」

確信を避けて問う。
レニーは独身を貫き、昨年五十を過ぎたところだ。
エルディーテとは二回りは離れている。

ユークは静かに首を振った。
その仕草に安堵した。よかった、やはりユークは素晴らしい。
彼は年齢を理由に相手を弾くような人間ではない。

歳は離れているが自分は三男とはいえ実家の家格は公爵家、そしてレニー自身は騎士団団長という地位にいる。

なによりエルディーテは致命的にも、見える部分に火傷痕が残る傷物令嬢のため、とっくに婚期を逃していたので選べる立場でない。

様々なことを鑑みれば悪い話でないのだ。
だとすれば、やはりあのことが問題なのだろう。

「レイヴン団長殿。エルディーテは騎士ですよ」

ユークは冷えた視線を瞬いて消すと、口元に笑みを浮かべ答えた。
その口ぶりをそのまま受け取るなら、ユークは娘を一生騎士のまま生きさせるつもりなのだろうか。

エルディーテに婚約の打診がいかないよう目につくものは排除してきたが、そもそもユーク自身が娘の婚姻に積極的でないのかもしれない。

レニーの算段では、エルディーテを通じてユークの身内になり、関係を修復するつもりだったが彼は頑なだった。

「しかし……」
「それに君の愚行は鮮明に覚えています。娘が望むなら別ですが、私としては縁戚になるつもりはありません」

初めて試みた対面での打診は、はっきりと断られてしまった。
そしてユークは去ってゆく。