喪失騎士エルディーテの冥界追想録 〜 孤独な騎士の過去を辿る、運命を覆す相互救済ロマンス~

自室に戻ってゆくオルディスを追ってゆくと部屋を入った瞬間また景色が変わった。

今度は最初に見た邸の玄関だった。
話し声が聞こえる。少し開いた扉の奥だった。

戸惑ったオルディスの声と、トーンの高い女性の声だ。

「私の心はあなたの気持ちに応えられないのです」

「なぜなんだ……私に不満があるなら教えてくれ」

隙間から覗くと二人がなにやら話し込んでいた。
立ち上がったオルディスが俯く令嬢に対し困った表情を浮かべていた。

そしてエルディーテは気付く。さきほど見た姿よりも、随分と背が伸びていることに。

身体の厚みも増して、貴族の青年という細身の体躯から逞しい体つきになっていた。

「申し訳ありません……」

令嬢は首を静かに横に振った。

「頼む、ハンナ。婚約破棄だなんて、理由が知りたい……でなければこんな一方的なこと納得できない」

オルディスは食い下がるように跪き、そしてハンナと呼んだ令嬢の手を取った。
会話の内容からして二人は婚約者同士。しかしそれが白紙に戻された、といったところだ。

「――あなたの隊内の境遇に私達の未来が危ぶまれるからです」

暫くの間を置いてハンナは答えた。

「父も同意しています。あなたを婿に迎えるのは爆弾を抱えるようなものだと……今日、父らを連れず伺わせていただいたのは、これまでの付き合いを私なりに重く受け止めているからです」

ハンナの言った”私達”にはオルディスは入っていなかったようだ。

「爆弾……?何を言ってるんだ。私は真面目に勤務している普通の騎士だ」

エルディーテが見てきたオルディスは清廉潔白で曲がったことが嫌いという印象だ。

彼はあれから騎士団でもその姿勢を貫いたのだろうか。

眉尻を下げ視線を逸らしたハンナは言いにくそうに告げた。

「何度もレイヴン様に歯向かって規律を乱しているのでしょう?」

「は?」

「あなたのせいで何度も乱闘が起きたと聞いています。あなたからはいつも変わりないと文をいただきますが、レニー様は私達セプター家のことを憂い、打ち明けてくださいました」

「……レニー・レイヴンが……そのようなことを?ハンナ、君が聞いた話には事情が……」

「事情?私は何度もオルディス様を心配してきました。それなのに今になってそのようなことを?」

押し問答するオルディスは明らかに困惑の色を深めていた。

「――迎えに上がりました。ハンナ嬢」

突如、背後に気配を感じ振り返る。するとレイヴンの姿があった。
その姿に固まってエルディーテは動けない。

そしてレイヴンはエルディーテの身体を突き抜けて部屋に入ってゆく。

レニー・レイヴン……団長の名だ。