「分かった。それほどまでにサフィア様を想っていたんだな……家の事は任せてくれ」
「……いいのか?」
ディアンは双眸を瞬きエルディーテを見た。
「あぁ。公爵家には従兄弟を養子に迎え入れればいい。父にはそう進言するよ。私は婿取りが出来るような柄ではないしな」
肩を竦めて薄い笑みを零すとディアンは表情に陰りがさす。
「……すまない。迷惑かけて……姉さんのことも、家の事も大事だが私は……」
「かまわないよ。私もいつか、ディアンのように敬愛以上の感情を誰かに抱いてみたい」
口端を緩め自虐的に告げればディアンはエルディーテの手を握って「できるよ」と微笑んだ。
「しかし流石に今夜一晩ぐらいは家で過ごせよ、ディアン。私ほど夜目がきかないだろう?」
部屋の隅にまとめられていた荷物を見てエルディーテは言った。
招き入れられた当初は静養でもするつもりなのかと思ったが、旅支度だったと気付き釘をさす。
しかしディアンは首を振る。
「いや、悪いが直ぐにでも発つつもりだ」
「――それはさすがに残される身としては許せないな……もう会えないのなら、一晩ぐらい酒に付き合ってくれ。心の準備も出来ないうちにお前まで失うのはキツい」
エルディーテは縋るようにディアンを見た。
実の姉の最後の願いぐらい叶えてくれと、そう訴えれば優しい弟は折れたように頷いた。
「分かったよ……だが、早朝には出発するから。お手柔らかにね」
きっとそう言ってくれるだろうと考えて出した要求は、予想通り応じられた。
エルディーテは笑った。
「なら倉庫へ行ってくるよ。父様達に見つからないようにしなければな……酔いすぎないように調理場から何か軽食も貰おう」
そうして弟の出立を止めたのだ。
調理場には一人で行って、ハーブを漬け込んだ度数の高い薬用酒が戸棚にあったことを思い出して取り出す。使用人ら気つけに使うもので、共用のため調理場に保管されていたのだ。
――ディアンの話が本当なら、試練を受けるべきは自分だ。
そう考え、服に忍ばせる。
目の前でみすみす死なせてしまった罪は重い。
警護を外されていたから、などという言い訳ならいくらでも立つ。
実際に当日の警護任務から外されていたエルディーテは処罰を受けなかった。
しかし王女付きの騎士として、心を許していた存在として、ずっと後悔してやまない。
ディアンの聞いた噂が真実ならば、先に試練を受けるべきはエルディーテだ。
そう確信したのだ。
連れ帰れたらディアンに引き渡す。
きっと自分の手で助けたいと願っているだろうが、これはある意味で二人を幸福に出来るチャンスなのだ。
自分の幸せなどとっくに諦めていたエルディーテにとって、これ以上の贖罪はない。
――あの日、サフィアがエルディーテをこの国から連れ出すと言ったように、今度は自分がサフィアを冥界から連れ出そう。
しかし、眠る弟の荷を奪って辿り着いた先で待っていたのは難題だった。
ケルベロスは協力的な様子を窺わせるが時間に追われるような気分でエルディーテは邸を歩く。
静かな邸はまるでどこかの貴族の邸宅のようで、けれども不可解な場所に幾つもの扉がついていた。
そのうちの一つを開いてみると、中から何かが飛び出してくる。
「……なっ……」
あまりの勢いに眉を顰めると、飛び出したものを追うように宙へ視線を向ける。
それは鳥だった。
ハチドリのようだが全身が青い。
そしてその鳥はエルディーテを見つめながら非常に速い羽ばたきで宙に佇みながら喋った。
「――お前があたらしい挑戦者?」
「……いいのか?」
ディアンは双眸を瞬きエルディーテを見た。
「あぁ。公爵家には従兄弟を養子に迎え入れればいい。父にはそう進言するよ。私は婿取りが出来るような柄ではないしな」
肩を竦めて薄い笑みを零すとディアンは表情に陰りがさす。
「……すまない。迷惑かけて……姉さんのことも、家の事も大事だが私は……」
「かまわないよ。私もいつか、ディアンのように敬愛以上の感情を誰かに抱いてみたい」
口端を緩め自虐的に告げればディアンはエルディーテの手を握って「できるよ」と微笑んだ。
「しかし流石に今夜一晩ぐらいは家で過ごせよ、ディアン。私ほど夜目がきかないだろう?」
部屋の隅にまとめられていた荷物を見てエルディーテは言った。
招き入れられた当初は静養でもするつもりなのかと思ったが、旅支度だったと気付き釘をさす。
しかしディアンは首を振る。
「いや、悪いが直ぐにでも発つつもりだ」
「――それはさすがに残される身としては許せないな……もう会えないのなら、一晩ぐらい酒に付き合ってくれ。心の準備も出来ないうちにお前まで失うのはキツい」
エルディーテは縋るようにディアンを見た。
実の姉の最後の願いぐらい叶えてくれと、そう訴えれば優しい弟は折れたように頷いた。
「分かったよ……だが、早朝には出発するから。お手柔らかにね」
きっとそう言ってくれるだろうと考えて出した要求は、予想通り応じられた。
エルディーテは笑った。
「なら倉庫へ行ってくるよ。父様達に見つからないようにしなければな……酔いすぎないように調理場から何か軽食も貰おう」
そうして弟の出立を止めたのだ。
調理場には一人で行って、ハーブを漬け込んだ度数の高い薬用酒が戸棚にあったことを思い出して取り出す。使用人ら気つけに使うもので、共用のため調理場に保管されていたのだ。
――ディアンの話が本当なら、試練を受けるべきは自分だ。
そう考え、服に忍ばせる。
目の前でみすみす死なせてしまった罪は重い。
警護を外されていたから、などという言い訳ならいくらでも立つ。
実際に当日の警護任務から外されていたエルディーテは処罰を受けなかった。
しかし王女付きの騎士として、心を許していた存在として、ずっと後悔してやまない。
ディアンの聞いた噂が真実ならば、先に試練を受けるべきはエルディーテだ。
そう確信したのだ。
連れ帰れたらディアンに引き渡す。
きっと自分の手で助けたいと願っているだろうが、これはある意味で二人を幸福に出来るチャンスなのだ。
自分の幸せなどとっくに諦めていたエルディーテにとって、これ以上の贖罪はない。
――あの日、サフィアがエルディーテをこの国から連れ出すと言ったように、今度は自分がサフィアを冥界から連れ出そう。
しかし、眠る弟の荷を奪って辿り着いた先で待っていたのは難題だった。
ケルベロスは協力的な様子を窺わせるが時間に追われるような気分でエルディーテは邸を歩く。
静かな邸はまるでどこかの貴族の邸宅のようで、けれども不可解な場所に幾つもの扉がついていた。
そのうちの一つを開いてみると、中から何かが飛び出してくる。
「……なっ……」
あまりの勢いに眉を顰めると、飛び出したものを追うように宙へ視線を向ける。
それは鳥だった。
ハチドリのようだが全身が青い。
そしてその鳥はエルディーテを見つめながら非常に速い羽ばたきで宙に佇みながら喋った。
「――お前があたらしい挑戦者?」


