「――それは誰かが作ったお伽噺の類では?」
突拍子もない話にエルディーテが問うと、ディアンは神妙な面持ちで首を振る。
「いいや。ここ近年で人伝で急速に広まった話らしい。蘇りのチャンスは病も傷も癒す。最初の一人はこの試練を広めるための証人として幸運にも無条件で地上に返してもらえたという」
「なるほど……生き証人がいると」
「いた、だな……隣国の音楽家だったようだ。実際、死んだはずの人間が蘇っているのを見た人がいるらしい」
「胡散臭いな……まさかディアン、信じるのか?」
「――あぁ、信じる」
荒唐無稽な話に疑義の目を向けて問えば、ディアンは深く頷いた。
そしてエルディーテに問う。
「姉さんは、信じたいと思わないのか?」
その言葉に僅かばかり目を瞠った。
内容の真偽を疑うのでなく、事実と前提にして考えてみようとするディアンにサフィアに対する忠義を試されたような気がしたからだ。
エルディーテは怪訝な顔で「私だってチャンスがあるなら試したいさ」と答えた。
それから確認するようにディアンに問う。
「ちなみにその試練とは?ケルベロスの条件を満たさないと魂は連れて帰れないのだろう。何をするんだ?」
「……分からない。その内容は口にしてはいけないらしい……だから行ってみなければ分からない」
告げられた言葉は重く、静かな溜息が落ちる。
「その噂が本当じゃなかったら?冥界の入口は、確かに存在するが……」
この世は冥界と繋がっている。
それは聖典にも書かれているが、広く知られているのは冥界にゆけば帰ってこれないということ。
生者は絶対に入ってはいけないと、固く禁じられている。
間違って迷い込まないように誰もが幼いころから教えられてきたことだ。
「――それでも、私はサフィアを連れ帰りたい。迷惑をかけるが……後の事は姉さん達に任せたいと思ってる。いいかな?」
ディアンがエルディーテにこの噂を話したのはこのためだったのかと、やっと胸に落ちた。
嫡男である自分が無断で消えたらグラウス家は困惑すると考えたのだろう。
せめて姉だけには事情を話しておきたいというニュアンスが、端々から感じ取れた。
「……たとえ話は好きじゃないが、もし聖典の話も噂も間違っていて、地上に戻れたなら、その時はちゃんと家に戻ってくると約束してくれるか」
エルディーテは問う。
希望に縋りたいと思う。だが噂はあくまで噂だ。
そうなった時に、ディアンが家に戻る気があるのか、それはエルディーテにとって重要なことだった。
しかし返ってきた言葉は期待と裏腹に、エルディーテの心に重くのしかかる。
「いや、……それは出来ない。私にはサフィアが必要なんだ……」
その言葉は固い決意が秘められていた。
エルディーテの想像よりも遥かに凌ぐ愛が垣間見え、このままディアンを行かせれば二度と帰ってこないのだと現実味を持たせる。
困ったことに、それを知って見送れる姉ではない。
エルディーテは了承したふりをした。
突拍子もない話にエルディーテが問うと、ディアンは神妙な面持ちで首を振る。
「いいや。ここ近年で人伝で急速に広まった話らしい。蘇りのチャンスは病も傷も癒す。最初の一人はこの試練を広めるための証人として幸運にも無条件で地上に返してもらえたという」
「なるほど……生き証人がいると」
「いた、だな……隣国の音楽家だったようだ。実際、死んだはずの人間が蘇っているのを見た人がいるらしい」
「胡散臭いな……まさかディアン、信じるのか?」
「――あぁ、信じる」
荒唐無稽な話に疑義の目を向けて問えば、ディアンは深く頷いた。
そしてエルディーテに問う。
「姉さんは、信じたいと思わないのか?」
その言葉に僅かばかり目を瞠った。
内容の真偽を疑うのでなく、事実と前提にして考えてみようとするディアンにサフィアに対する忠義を試されたような気がしたからだ。
エルディーテは怪訝な顔で「私だってチャンスがあるなら試したいさ」と答えた。
それから確認するようにディアンに問う。
「ちなみにその試練とは?ケルベロスの条件を満たさないと魂は連れて帰れないのだろう。何をするんだ?」
「……分からない。その内容は口にしてはいけないらしい……だから行ってみなければ分からない」
告げられた言葉は重く、静かな溜息が落ちる。
「その噂が本当じゃなかったら?冥界の入口は、確かに存在するが……」
この世は冥界と繋がっている。
それは聖典にも書かれているが、広く知られているのは冥界にゆけば帰ってこれないということ。
生者は絶対に入ってはいけないと、固く禁じられている。
間違って迷い込まないように誰もが幼いころから教えられてきたことだ。
「――それでも、私はサフィアを連れ帰りたい。迷惑をかけるが……後の事は姉さん達に任せたいと思ってる。いいかな?」
ディアンがエルディーテにこの噂を話したのはこのためだったのかと、やっと胸に落ちた。
嫡男である自分が無断で消えたらグラウス家は困惑すると考えたのだろう。
せめて姉だけには事情を話しておきたいというニュアンスが、端々から感じ取れた。
「……たとえ話は好きじゃないが、もし聖典の話も噂も間違っていて、地上に戻れたなら、その時はちゃんと家に戻ってくると約束してくれるか」
エルディーテは問う。
希望に縋りたいと思う。だが噂はあくまで噂だ。
そうなった時に、ディアンが家に戻る気があるのか、それはエルディーテにとって重要なことだった。
しかし返ってきた言葉は期待と裏腹に、エルディーテの心に重くのしかかる。
「いや、……それは出来ない。私にはサフィアが必要なんだ……」
その言葉は固い決意が秘められていた。
エルディーテの想像よりも遥かに凌ぐ愛が垣間見え、このままディアンを行かせれば二度と帰ってこないのだと現実味を持たせる。
困ったことに、それを知って見送れる姉ではない。
エルディーテは了承したふりをした。


