喪失騎士エルディーテの冥界追想録 〜 孤独な騎士の過去を辿る、運命を覆す相互救済ロマンス~

「寛大な俺は、お前が条件を達成できるように協力してやる。ただし魂が三叉路に辿り着くまでだがな」

手の平を返すような申し出にエルディーテは訊ねた。

「また騙すつもりか」
「違う。とにかく俺としては……諦めるなり達成するなりして、とっとと帰って欲しい」

気怠そうに紡がれる。

「どういう風の吹き回しだ?」

「……王女と同様、無駄に命を削って欲しくない。他に理由が欲しいのなら……お前の見た目が好みだとでも言っておこう。美しい人間は地上で生きるべきだ」

今度は明らかに適当に告げたと分かる言い回しだった。

「エルディーテ。釘を刺しておくが期限の補償などないぞ。意外と明日あたりあっさり三叉路に招かれ王女の魂は消失するかもしれない」

ケルベロスは声を潜めエルディーテに告げる。
こちらは真実を言っているように聞こえ、エルディーテは神妙に頷いた。

「それでもいい。チャンスをくれたことに感謝する」

胸の前に手を置き、エルディーテは静かに頭を下げた。

何故か分からなが、このケルベロスは王女サフィアの意思と称し、エルディーテを早く地上へ帰らせたがっている。

この命が削られようがケルベロスには無関係のはずだが、これは噂で聞いた”慈悲深さ”故の言動なのかもしれない。

帰れなどと言われたが試されたと捉えるべきなのだろうとエルディーテは考えを改め、顔を上げると口端を緩めた。

「――私は必ず、君を眠らせてみせる」

ひとまずは入口に立つことが出来た。

安堵してこれまで身に着けていた鎧を脱ぎ、エルディーテは剣を置いて考える。

ケルベロスは大人しくエルディーテの前で再び身体を横たえ、のんびりと目を伏せて休みながら待っている。

先ほどは歌で失敗したが、要は寝かせられればいいのだろう。

「……一応聞くが、歌じゃないと駄目なのか?君は要するに眠りたいのだろう。他の方法では駄目か?」

神妙に問えば頭の一つだけが双眸を開け答えた。

「――昔、妻を冥界から連れ戻そうとした楽士の男がいたらしい。そいつは歌い、眠らせた。成功したのはその一度きりだ」

協力すると言ったのは確かなようで、勿体ぶることもなく返事が返ってくる。

しかしその言い回しには違和感があった。

ケルベロスは今、自分のことなのに他人の話を聞いてきたかのように言ったのだ。

だがエルディーテがそれを指摘するよりも先に、ケルベロスが続ける。

「何をする気か知らないが、薬草の類ならば効かないぞ。他に方法があると言うのなら好きにしろ。この邸には何でもある……」

その言葉と共に辺り一面に青白い光が次々と灯り明るくなる。
いつの間にか美しい庭園に囲まれた一軒の白い邸が現れていた。