どうか、君が幸せでありますように

「ただいま……」
「おかえり、汐那(しおな)
「お兄ちゃん……。帰ってたんだ」
 家に帰ると、リビングでくつろいでいるお兄ちゃんがいた。
「まあな。……どうだった?クラス」
美怜衣(みれい)と一緒だったよ。あと、(あおい)とさいりも」
 お兄ちゃんは、美怜衣(みれい)とは顔見知りだ。
 (あおい)とさいりと会ったことはないけれど、話には出している。
「そっか。良かったな」
「……お兄ちゃん。いつまでウチにいるの?」
「明日の朝には出るよ。明日の午後から大事な会議があるから」
「そうなんだ。明日……」
 お兄ちゃんは、大抵、帰ってきた日の夜には出て行く。
「……今日の夕飯は何?俺も手伝うよ。和佳(わか)も、もうすぐ帰ってくるらしいし」
「ロコモコだよ。……手伝ってくれるの?」
「もちろんだよー。今日、母さんたちは?」
「……(じゅん)さんは帰ってこないよ、多分。お母さんはどうだろう……。メールくれると思う」
「そっか……」
 夫婦仲が冷めているわけではない。
 仲は良い。
 たまに帰ってきた時は、みんなで外食に行っている。
 お似合いだと思う。
「……お兄ちゃんはさ。大学、行かなくて良かったの?」
「考えたことないなー。今は、目の前のことで精一杯だし。……ただ、まあ、行ったほうがいいとは思うよ?汐那(しおな)は。頭良いし、将来の選択肢が広がると思う。まあ、汐那(しおな)の自由だけど」
 お兄ちゃんは、お母さんが(じゅん)さんと再婚する前に、就職した。
 家計を助ける為だった。
 私たちが(じゅん)さんと家族になったのは、3年前だった。
 お母さんが幸せなら、それで良いと思った。
 ……"あのコト"で一番傷ついたのは、お母さんだったと思うから。
「そっ、か。そうだよね」
 手を洗いながら、誰にも聞こえないような声で呟く。
 大学に行かないという選択をしたのは、お兄ちゃんだもんね。
汐那(しおな)は、なりたい職業とか、ないの?」
「一応、あるけど……」
 昔、私は医師に憧れていた。
 医師になると決めていた。
 でも、今はもう違う。
 ……人の命に係わる職業には就きたくない。
 だから、今なりたいと思っている職業にも、少し抵抗がある。
汐那(しおな)の人生なんだから、自分がやりたいと思うことをやりなよ」
「うん、そうだね……」
 ……命に係わる仕事は、その人の人生をめちゃくちゃにするかもしれない仕事だ。
 私は、それが怖い。
「ただいまー。……あ、もう洸雅(こうが)帰ってたんだ」
「おかえり、和佳(わか)
「ただいま……。洸雅(こうが)もおかえり」
「ただいま」
 お姉ちゃんが帰ってきた。
 お姉ちゃんは、優秀な大学生で、将来は弁護士になりたいらしい。
 友達もたくさんいて、明るくて、優しい。
 自慢の姉だ。
「おかえり、お姉ちゃん」
「ただいまー。今日の夕飯は?」
「ロコモコだよ」
「美味しそー。楽しみにしてるね」