妖喰いの悪食花嫁〜喰われるはずの生贄は、百鬼の主と百日の契約結婚を結ぶ〜

 三日目の夜、蛍の熱がようやく下がった。
 棗が額の布を替えようとすると、手首をつかまれる。

「もう十分だ。お前も休め」
「あなたが眠れば休みます」
「俺が眠れば、また夜通し見張るつもりだろう」
「見張っているのではありません」
「では、心配しているのか」

 棗は返せず、布を絞り直した。
 蛍はそれ以上追及しなかったが、わずかに嬉しそうだった。

「喰おうとしている。と言ったらどうしますか?」
「……それなら本望だ」

 棗の口元がほんのわずか緩むのを見て、蛍は息を止めた。

「今、笑ったか」
「笑っていません」
「もう一度」
「見間違いです」

 棗は振り払うように立ち上がると、戸口へ向かう背中へ蛍の声が届く。

「棗」
「何ですか」
「いや。呼んだだけだ」

 その声色が以前より柔らかい。
 棗の名は、誰かへ呼ばれるためのものだったのだと、今さら知る。
 藤宮家で名を呼ばれる時は、役目を命じられる時だけだった。

 用がなくても棗を呼ぶ。そこにいることを確かめるように。
 自分もいつか、彼の名をただ呼ぶだけの日が来るのだろうか。