妖喰いの悪食花嫁〜喰われるはずの生贄は、百鬼の主と百日の契約結婚を結ぶ〜

 過剰な妖力を引き受けたぬらりひょんは、三日間眠り続けた。
 棗はその間、ほとんど彼の部屋を離れなかった。
 朝は障子を少し開き、強すぎない光を入れる。昼には冷えた布を替え、夜は呼吸の音を確かめながら傍らで眠った。
 誰かのために夜を明かすことも、目覚めを待つことも初めてのこと。

 眠る顔は、百鬼の主には見えない。長い睫毛を伏せ、呼吸が浅くなるたび、棗の胸も締めつけられた。
 この人が目を覚まさなければ、自分は自由になる。
 そう考えた瞬間、吐き気がするほど嫌だった。

 妖の身体へ人間の薬が効くのかは分からない。
 それでも、濡らした布で額の汗を拭き、少しでも目を覚ませば水を飲ませた。

 屋敷の妖たちは、遠巻きに棗を見ている。
 以前のような畏怖だけではない。
 主を弱らせた女への警戒。

 それでも、棗を追い出そうとする者はいなかった。
 彼らもまた、主が自分の意思で棗を救ったと知っている。

「御前様へ何をした」

 小柄な妖が、戸口から低く問うた。

「私の中の妖力を吸ってくださいました」
「真名を呼べば、御前様が傷つくことはなかった」
「分かっています」
「なら、なぜ呼ばなかった」

 妖の目には、主を危険へ晒した人間への怒りがあった。
 棗は責められて当然だと思いながらも、目を逸らさなかった。
 棗は眠る蛍の顔を見た。

「弱った時に迫られて結ぶ契約を、自分の選択だとは思えなかったからです」