妖喰いの悪食花嫁〜喰われるはずの生贄は、百鬼の主と百日の契約結婚を結ぶ〜

 指先が杏の胸元へ触れる。
 細い光の糸が引き出された。
 遠く離れた棗へつながる、双子の因果。

 指を閉じると糸が音もなく断ち切られた。
 因果の糸が切れた瞬間、遠くで何かが大きく脈打った。

 ぬらりひょんの顔から、突然余裕が消えた。
 遠くにいる棗へ何かが起きたと察したらしい。

「棗……?」

 杏を見下ろすこともなく、ぬらりひょんの姿がその場から掻き消えた。

 杏の身体から、借り物の霊力が抜けていく。
 同時に、身体の中へ初めて完全な静けさが訪れた。
 生まれてから当然に満ちていた力がなくなり、自分の器がどれほど小さかったのかを思い知らされる。

 膝が崩れ、汚れた白無垢が床へ広がった。

 棗は死ななかった。
 杏を助けた上で、もう何も渡さない道を選んだ。
 何もかも失った祝言の席で、杏は初めて、棗が自分の人生から完全にいなくなったことを知った。
 自分の誕生日が棗の命日になるのは気に食わないと笑った。

 けれど、この日は棗の四十九日にはならなかった。
 代わりに、杏が選ばれる者ではなくなった日として残ることになる。