妖喰いの悪食花嫁〜喰われるはずの生贄は、百鬼の主と百日の契約結婚を結ぶ〜

「私の誕生日が棗の命日になるのは、少し気に食わないけれど……まあ、誰も気にしないでしょう。棗も気にすることはないわよ」

 双子なのだから、棗の誕生日は杏の誕生日でもある。
 杏が不満なのは、妹が死ぬことではない。自分の生まれた日に、妹の命日が重なることだった。

「死んだ後は、気にすることもできませんから」
「そうね。だから安心して」

 杏は棗の言葉に含まれたものへ気づかず、満足そうに笑った。

「棗があちらへ逝って、四十九日が明けたら、私はこれを着て祝言を挙げるの。楽しみだわ」
「私も、姉様の晴れ姿を見られないのが心残りです」

 ほかに返す言葉がなかった。
 杏は女中へ白無垢を預け、軽い足取りで離れを出ていく。
 女中の一人が、去り際に一度だけ棗を振り返った。けれど杏の後を追うだけで、何も言わない。
 その沈黙さえ、棗には慣れたものだった。

 足音が遠ざかると、部屋には再び妖の気配が満ちた。
 障子の向こう。天井裏。庭の暗がり。

 待っている。
 棗が差し出される日を、指折り数えるように。
 妖にとって、自分は極上のご馳走でしかない。
 棗は窓辺へ寄り、暮れかけた庭を見た。木々の影が、いつもより濃く揺れている。

 死にたいわけではなかった。
 誰もいない遠い場所へ逃げたいと、何度も思った。
 けれど、逃げる方法も、生きていていい理由も、誰も教えてくれなかった。
 抵抗するという発想さえ、この家では育たなかった。

「……私は、何のために生まれてきたのだろう」

 問いは冷たい風に消えた。

 あと一週間。
 庭の闇の中で、何かが舌なめずりをするように蠢いた。