妖喰いの悪食花嫁〜喰われるはずの生贄は、百鬼の主と百日の契約結婚を結ぶ〜

 愛しているから助けるのではない。許すためでもない。
 杏の死を背負えば、棗はこれからも姉へ縛られる。
 助けた上で、終わらせたい。

「姉様を助けた後、双子の因果も切ってください。藤宮家との外法の盟約も、もう終わりに……」
「お前は、どこまでも俺の予想どおりには動かないな」
「……悪食ですから」

 一瞬だけ目を見開き、棗の額へ手を当てた。

「戻ったら、その悪食を必ず止める」

 力なく返すと蛍は棗を布団へ運び、屋敷の妖へ見張りを命じた。

「すぐ戻る。俺が戻るまで、何も喰うな」
「努力します」
「約束しろ」
「……約束します」

 棗の返事を聞き、蛍の姿が消える。
 残された部屋で、自分の腕へ増えていく鱗を見た。
 屋敷の妖が水を運んできたが、近くへ置くこともできず、戸口へ盆を残して逃げた。
 手を伸ばすと、指先の爪が器へ触れ、陶器が簡単に割れてしまう。

 自分の身体ではないように喰った妖たちが、内側から棗の目を通して世界を見ている。

 彼が戻るまで人でいられるだろうか。
 初めて、早く戻ってほしいと思った。
 喰った妖たちの声は、まだ体の奥底で蠢き続けていた。