妖喰いの悪食花嫁〜喰われるはずの生贄は、百鬼の主と百日の契約結婚を結ぶ〜

 最初は蛍も止めなかった。
 この程度の妖であれば、棗には敵わないと知っている。
 だが、五匹、六匹と喰ううち、棗の体内へ溜まる力が膨れ上がった。

 視界が赤く染まる。
 妖を喰うたび、力だけではなく飢えまで流れ込む。

 もっと喰え。
 次の核を奪え。
 自分のものではない欲求が、棗の舌を熱くした。

 妖たちの断末魔が、頭の中へ残り始める。
 白かった手首に、青黒い鱗が一枚浮かんだ。

「っ!棗!もう喰うな!」

 蛍の声が飛び、棗は止めようとした。
 それでも、龍眼に妖核が映ると、空腹にも似た衝動が喉を締めつける。

 襲われる。
 喰われる前に喰わなければならない。
 十八年間浴び続けた妖の視線が、身体の奥で蘇る。

「下がっていろ。残りは俺が消す」

 棗は頷こうとしたけれど、核が視界へ入った瞬間、喉が勝手に動く。
 蛍が手を伸ばすより先に、妖は霧となって棗へ吸い込まれた。

「止められないのか」
「っ……分かりません。見えると、喰わなければならない気がして……勝手にっ」

 自分の声へ、別の妖の声が重なった。
 棗自身も、その響きに背筋が冷えた。

 七匹目が逃げようと背を向けた。

 龍眼が核を捉える。
 黒い身体が砕け、棗の口元へ吸い込まれた。