妖喰いの悪食花嫁〜喰われるはずの生贄は、百鬼の主と百日の契約結婚を結ぶ〜

「杏様、本当にお綺麗でございます」
「当然でしょう。この日のために育てられたのですもの」

 棗が百鬼の主に抱き上げられた光景は、今日で忘れられる。
 祝言の席には、近隣の名家と藤宮家に連なる者たちが集まっていた。
 杏の霊力が衰えたという噂を確かめるため、いつも以上に多くの目が向けられている。

 婚家の女たちが、白無垢の裾を褒める。
 杏は柔らかく微笑みながら、彼女たちが自分の霊力を値踏みしていることへ気づいていた。

 今日さえ無事に終わればいい。
 棗が死ねば、四十九日を待たずとも霊力は戻り始めるはず。
 杏は花婿の隣へ座り、盃が運ばれてくるのを待った。

 棗のことは考えない。
 今頃、妖に喰われているかもしれない妹の顔も。
 棗が最後に自分を振り返らなかったことも。

 すべて、白い布の外へ追い出した。
 花婿が隣から微笑みかける。

「今日から、よろしく頼む」

 杏は美しく頷いた。
 棗が死ねば、婚家も、誰も、自分を疑わなくなる。

 三三九度の盃が持ち上げられる。

 杏は一の盃へ口をつけた。
 酒の味がほとんど分からない。庭の外から風が吹くたび、森へ放った妖の気配が戻ってくる気がして肩が強張る。

 それでも、棗の悲鳴が聞こえるはずはない。百鬼の屋敷は遠い。

 杏は二の盃を受け取った。
 自分は何も見ていない。妖を呼んだ証拠も残らない。棗が喰われれば、誰もが悪食花嫁の力に耐えられなかったのだと思うだけ。

 三の盃へ手を伸ばした時、硝子の割れる音が響いた。