妖喰いの悪食花嫁〜喰われるはずの生贄は、百鬼の主と百日の契約結婚を結ぶ〜

 藤宮家からの使者は、豪奢な箱をいくつも携えてきた。
 杏の嫁入り道具として用意されていた反物や装身具。棗を返す代わりに、杏を百鬼の主の妻として差し出すという申し出だった。

 棗も広間へ呼ばれ、ぬらりひょんの隣に座る。
 使者の前には、杏の姿絵まで広げられている。白い小袖に緋袴をまとい、扇を持って微笑む姿。
 藤宮家は、棗と交換する品として杏を美しく飾り立ててきた。

「杏様はこの上なく美しく、巫女としての霊力もお持ちです。花嫁としての教育も十分に受けております。棗様より、御前様のお役に立てるかと」

 使者は棗がそこにいるにもかかわらず、平然と比較した。
 藤宮家では慣れたことだった。
 杏は美しく、棗は見栄えがしない。杏は賢く、棗は何も知らない。杏は選ばれ、棗は捨てられる。

「――断る」

 隣から落ちた声には、迷いがなかった。
 使者が目を見開く。

「ですが、棗様は妻としての作法も知らず、霊力も危うい娘です。杏様であれば」
「その力自体が、棗から流れ込んだ借り物だ」

 使者の言葉を冷たく遮ると、指先が棗と姿絵の間を一度なぞった。

「俺の目に、見せかけは通じない。棗を俺の結界内へ置いたことで、双子の因果を通じた霊力の流れが細った。だから姉の力は不安定になっている。本来の器の差が現れただけだ」
「……ぬらりひょん様。因果とはなんですか?」
「藤宮家は、お前たちに何も伝えていないらしいな」

 棗は息を止めた。
 自分と杏の間に因果があることなど知らなかった。