「棗、見てちょうだい」
弾んだ声とともに入ってきたのは、双子の姉、杏だった。
腕には白い布に包まれた大きなものを抱え、後ろには女中が二人付き従っている。
「仕立て上がったの。あなたにも見せておきたくて」
杏が布を解くと、真っ白な白無垢が現れた。
裾には銀糸で鶴が舞い、光の加減で細かな波模様が浮かぶ。並の家では用意できない品だと、棗にも分かった。
「綺麗でしょう。お母様が、腕のいい呉服屋へ頼んでくださったの」
杏は白無垢を胸元へ当て、姿見の前で身をひねった。艶やかな黒髪が揺れ、頬は喜びに上気している。
棗と同じ日に、同じ顔で生まれたはずなのに、杏は愛され、選ばれる者の顔をしていた。
棗は、選ばれない者の顔しか知らない。
「ねえ、棗」
鏡越しに杏の目が向く。
悪意を向けるというより、ありふれた世間話でもするような声だった。
「あなたがあちらへ逝くのは、来週でしょう。四十九日が明けたら、ちょうど私の祝言の日取りになるの」
棗は白無垢の裾に刺された鶴を見た。
首を伸ばし、並んで飛ぶ二羽の鶴。その下には、末広がりの波が銀糸で描かれている。
杏は一人ではない。婚家へ迎えられ、夫と家族になり、これから先の年月を生きる。
棗に用意されるのは、喰われた後に残る四十九日だけだった。
自分が喰われてから四十九日。
その忌明けを待って、杏は花嫁になる。
弾んだ声とともに入ってきたのは、双子の姉、杏だった。
腕には白い布に包まれた大きなものを抱え、後ろには女中が二人付き従っている。
「仕立て上がったの。あなたにも見せておきたくて」
杏が布を解くと、真っ白な白無垢が現れた。
裾には銀糸で鶴が舞い、光の加減で細かな波模様が浮かぶ。並の家では用意できない品だと、棗にも分かった。
「綺麗でしょう。お母様が、腕のいい呉服屋へ頼んでくださったの」
杏は白無垢を胸元へ当て、姿見の前で身をひねった。艶やかな黒髪が揺れ、頬は喜びに上気している。
棗と同じ日に、同じ顔で生まれたはずなのに、杏は愛され、選ばれる者の顔をしていた。
棗は、選ばれない者の顔しか知らない。
「ねえ、棗」
鏡越しに杏の目が向く。
悪意を向けるというより、ありふれた世間話でもするような声だった。
「あなたがあちらへ逝くのは、来週でしょう。四十九日が明けたら、ちょうど私の祝言の日取りになるの」
棗は白無垢の裾に刺された鶴を見た。
首を伸ばし、並んで飛ぶ二羽の鶴。その下には、末広がりの波が銀糸で描かれている。
杏は一人ではない。婚家へ迎えられ、夫と家族になり、これから先の年月を生きる。
棗に用意されるのは、喰われた後に残る四十九日だけだった。
自分が喰われてから四十九日。
その忌明けを待って、杏は花嫁になる。



