妖喰いの悪食花嫁〜喰われるはずの生贄は、百鬼の主と百日の契約結婚を結ぶ〜

『どうぞ連れ去った棗をこちらへ返していただきたい。代わりに、一族の誇りである杏を、正式な妻として差し出します』

 杏はその話を聞いても、腹を立てなかった。

 当然だと思った。
 容姿も、作法も、巫女としての教育も、棗とは比べものにならない。
 ぬらりひょんが自分を見れば、泥にまみれた棗などすぐに返すに違いない。

 元々の祝言を挙げる相手とは、数度会っただけ。
 同じ顔である棗と入れ替わっても気が付かないだろう。
 むしろ、ようやく正しい順序へ戻ると思った。
 棗は一時的に珍しがられただけ。百鬼の主も、杏の白無垢姿と洗練された作法を見れば、どちらが妻にふさわしいか分かるはずだ。

 しかし、戻った使者は青い顔をしていた。

「断られました」
「……どうして?」
「百鬼の主は、欲しいのは棗様だけだと」
「なんですって……?」

 杏は耳を疑った。

「私を見てもいないのに?」
「杏様の力は、棗様から流れ込んだものにすぎないとも仰せでした」
「嘘よっ!」

 声が震えた。
 父が使者を下がらせ、襖を閉める。
 部屋へ残ったのは両親と杏だけだった。

「杏。聞きなさい」
「棗とお前は、生まれた時から双子である因果でつながっている。棗の霊力は人の器へ収まらぬほど強かった。余った力がお前へ流れるよう、術を施した」
「では……私の力は」
「お前のものとして使ってきた。何の問題もなかった」
「棗がいなくなったから、私は弱くなったの?」