妖喰いの悪食花嫁〜喰われるはずの生贄は、百鬼の主と百日の契約結婚を結ぶ〜

 棗が屋敷から消えた日を境に、杏の祈祷は思いどおりにいかなくなった。

 神前で祝詞を唱えても、以前のように澄んだ力が満ちない。厄払いを終えた翌日には、祓ったはずの穢れが戻っている。
 雨乞いでは雲一つ呼べず、杏は集まった領民の前で恥をかいた。
 以前なら祝詞の終わりとともに風が変わり、遠くで雷が鳴った。今回は青空が広がったまま、汗だけが白粉の下を流れた。

 領民たちの落胆した目が、杏へ集まる。

「巫女姫様にも、お力の及ばぬことがあるのだな」

 誰かの囁きが耳へ刺さった。

「祝言を前に、疲れが出たのだろう」

 父はそう取り繕った。
 けれど、親族の目は以前ほど恭しくない。
 婚家から来た使者も、杏の霊力について遠回しに尋ねるようになった。

「巫女姫の力が近頃弱まったという噂がありますが、祝言へ障りはございませんか」

 母が笑って否定する横で、杏は袖の中の手を握り締めた。

 力は自分のものだ。
 生まれた時から、杏は優れた巫女だと言われてきた。
 棗は不吉な忌子で、自分は家を栄えさせる祝福の娘。
 それなのに、棗がいなくなってから力が衰えた。

 認めたくない疑いが、胸の底へこびりつく。

 両親は百鬼の主へ使者を立てた。