妖喰いの悪食花嫁〜喰われるはずの生贄は、百鬼の主と百日の契約結婚を結ぶ〜

「あなたは、ずいぶん小さいのですね」
「何がだ」
「核が」

 妖は顔色を変え、口を閉ざした。
 隣で蛍が肩を揺らす。

「くくっ。俺の妻へ近づく時は、喰われる覚悟をしておけ」

 その一言で、周囲の妖が一斉に距離を取った。

 悪食花嫁。
 蔑称のはずなのに、不思議と嫌ではなかった。
 生贄と呼ばれるよりは、よほど自分のしたことに近い。
 その夜、棗が部屋で髪を梳いていると、戸を叩く音がした。

「入るぞ」
「あなたは、どこへでも勝手に入れるのではないのですか」
「入れる」
「では、なぜ私の部屋では戸を叩くのです」

 蛍は当然のことを聞かれたように棗を見る。

「勝手に入れば、お前は二度と俺を招き入れそうにないからな」

 胸の奥が、わずかに揺れた。
 人の意思を無視して、どの家にも入り込める妖。
 その蛍が棗にだけは、戸一枚の境界を守っている。

 理由を考えれば、警戒させないための策かもしれない。それでも、許しを求められること自体が初めてのこと。
 藤宮家では、離れの戸が開く時に棗の許しを求める者などいなかった。
 この蛍は棗の霊力を利用しようとしている。それでも、棗の部屋へ入る時だけは意思を確かめる。

「それで、何の御用ですか」
「名を呼ばせに来た」

 わずかな温かさが、すぐに引っ込んだ。

「呼びません」
「即答か」
「戸を叩いたことと、それは別の話です」