妖喰いの悪食花嫁〜喰われるはずの生贄は、百鬼の主と百日の契約結婚を結ぶ〜

 朝、目を覚ますと、湯気を立てる膳が運ばれてきた。
 艶のある白い飯。鰹の香りが立つ味噌汁。皮を香ばしく焼いた魚と、出汁を含んだ里芋。
 棗が育った藤宮家では、一度も供されたことのない食事。
 離れへ運ばれる膳は、いつも冷めた麦飯と、家族の食卓から下げられたものばかりだった。

 誰かと向かい合って食事を取ることも初めてのこと。

 棗は箸を持ったまま、膳を見つめた。
 魚の皮が弾ける香ばしい匂い。味噌汁の湯気が頬へ触れる温度。空腹だった腹が、小さく鳴った。

 向かいの蛍に聞かれた気がして、棗は袖で腹を隠す。

「毒でも入っていると思っているのか」
「太らせているのでしょう。上等な食材にするために」
「本気で言っているのか」
「ほかに、親切にされる理由が思いつきません」

 蛍の箸が空中で止まった。

 温かな食事も、肌へ馴染む着物も、広い部屋も。
 死ぬことだけを期待されてきた棗には、過剰で不気味なものにしか思えない。
 最後に美味しく喰うため、丁寧に肥らせている。
 そうでなければ、自分へこれほどのものが与えられる理由がない。

「冷める前に食え。食材にするかは、その後で考える」
「やはり喰うつもりなのですね」
「今のは冗談だ」

 棗が警戒を強めると、蛍は深く息を吐いた。
 味噌汁を一口飲むと、出汁の塩気と温かさが喉を通り、空だった腹へ落ちた。
 焼き魚の脂が舌の上でほどける。