妖喰いの悪食花嫁〜喰われるはずの生贄は、百鬼の主と百日の契約結婚を結ぶ〜

「お前へ、百日間の契約結婚を持ちかける」
「契約結婚……?」
「百日、俺の妻として暮らせ。その間、俺はお前を喰わない。他の妖にも喰わせない。藤宮家からも守る。人里への不侵も継続する。その代わり、お前は理由なく俺の配下を喰うな」
「夫婦の務めは」

 棗が警戒して尋ねると、彼はわずかに目を細めた。

「お前が望まぬことはしない」
「逃げた場合は?」
「追う。だが、百日を過ぎれば止めない」

 喰われずに、生きられる……?
 十八年間、一度も与えられなかった選択肢が目の前に。
 明日を望んでもよいという言葉に、凍っていた心が揺らぐ。
 それでも、そんな都合のよい話があるはずはない。

「あなたには、何の得があるのですか」
「俺はお前を手元へ置ける」
「それだけ?」
「お前の霊力には、それだけの価値がある」

 迷いのない答え。
 棗は自分の力がどれほどなのかを知らない。他者の妖気は見えても、自分自身の霊力は龍眼に映らない。
 ぬらりひょんが欲しがるほどの価値があると言われても、実感はなかった。

「百日以内に、もう一つ条件を満たせば、この婚姻は固定される」
「条件とは?」
「俺の真名を呼ぶことだ」

 棗の肩がわずかに強張る。
 妖の真名は、ただの呼び名ではない。
 妖が自ら名を明かし、人がその存在を受け入れて呼べば、支配と契約が形を持つ。
 名を呼んだ者と呼ばれた妖の霊力は、縛りによって結びつき、簡単には解けなくなる。

「俺の真名を知る者はいない。だがお前には教えてやる」