妖喰いの悪食花嫁〜喰われるはずの生贄は、百鬼の主と百日の契約結婚を結ぶ〜

 目が覚めると、見慣れない部屋に一瞬混乱してしまった。

 昨晩のことを順に思い出す。
 本来己の命日だったはずの日。妖に喰われるはずが喰い返し、男に連れられてきた。

 庭へ面した八畳ほどの部屋には、桐の箪笥と鏡台が置かれている。障子を開けば池が見える。
 生贄へ与えるには広すぎる。妻へ与えるには、棗には馴染みがなさすぎる。
 傷を拭われ、血と妖気の染みた黒い装束から、薄い色の着物へ替えさせられ、用意された布団に寝かされた。

 そこまでは確かに覚えている。
 疲れからだろうか、そのあとの記憶が一切抜け落ちている。
 何を考えたらいいのか……呆然としていると、ぬらりひょんが部屋へ現れた。

「さて。お前をどう扱うか決めた」
「……喰うのでしょう」

 相手が変わっても、生贄の行き着く先は同じ。
 期待を持てば、失った時に傷つく。棗は自分へそう言い聞かせた。

「いや。お前ほどの器を、そのまま喰って終わらせるのは惜しい。喰うより、手元に置いた方が使い出がある」
「使い出、ですか」
「戦力としてな」

 飾りのない言葉。
 可哀想な娘として憐れむのでも、守るべき女として扱うのでもない。棗を稀有な力を持つ道具として値踏みしている。
 その方が理解しやすかった。
 藤宮家と同じく利用されるだけでも、ここでは生きていられる可能性がある。