中央に盛られた食材の山を眺めながら、タツキは考え込んだ。
(どんな料理を作ればいい? ここに在る食材で御宿石様の怒りを鎮める料理なんて)
どの食材も街で手に入る程度の一般的な食材だ。
(ガルガル猪もカラスうずらの卵も使い切ったぞ)
珍しい食材はもう手元にない。
「せめて、カラスうずらの肉を持ってくるんだったな」
こんなことになるとは思わないから、最低限の準備しかない。
晴がタツキの服を引いた。
「待ってろ、晴。今、考えているから……」
「キジムラ食堂を作ろう」
「何とかレシピを捻り出して……え?」
晴の言葉に、タツキは思考を止めた。
視線を下げる。晴がタツキを真剣に見上げていた。
「この食材を見た時に思ったんだ。食堂のご飯が作れるって」
「そりゃ、作れはするけどよ」
タツキは食材の山に目を向けた。
晴が言う通り、食堂のメニューなら一通り作れるだけの食材が揃っている。
「けど、それじゃ、あまりにも普通すぎる」
「普通じゃダメなの?」
晴が懸命にタツキの服を引っ張った。
「師匠が食べさせてくれた唐揚げ、美味しかった。街の皆だって、キジムラ食堂の料理が大好きだよ」
晴の言葉が、自然とタツキの心に沁みた。
「師匠の料理は、材料が珍しくなくたって、人を幸せにするよ。僕は師匠のご飯で幸せになったよ」
前回の豊穣祭が、タツキの頭を過った。
皆が喜ぶ料理をと考えて、タツキは珍しくもない唐揚げを作った。それがこの国では珍しく、神様にも受け入れられた。
「神様だって、美味しい料理で幸せになれるよ!」
晴が叫んだ。
タツキの中で、何かが弾けた。
(俺は、料理師として大事なことを忘れていたのかもしれねぇな)
自分で言った言葉が、頭を過った。
『美味いもんを食えば、人は心が丸くなるもんだ。美味いもんを作れれば、仲良くなれる』
自然と口端に笑みが上った。
「そうだ……そうだよな。美味いもん食えば、心が丸くなるもんな」
「なるよ。僕は、まん丸になった!」
タツキは晴を抱き上げた。
「ありがとう、晴。晴はやっぱり、最高の弟子だ」
「僕は師匠も、師匠のご飯も、大好きだよ」
晴を抱いたまま、改めて食材を眺める。
「ハンバーグ、ナポリタン、オムライス、グラタン……唐揚げも作れるな」
「全部作ろうよ」
タツキは晴と目を合わせた。
「それ、良いな。お子様ランチ……大人のお子様ランチプレートだ」
「全部一皿に載せるの? とっても豪華だね! いっぱいあって、いっぱい幸せだ」
晴と二人で笑い合う。
「そうと決まれば、食材を集めるぜ。晴、バットに入れてくれるか?」
「わかった」
指示しなくても、晴が必要な食材をどんどんバットに盛っていく。
山盛りになったバットを晴が重そうに持ち上げた。
「大丈夫か? 片手、手伝うぜ」
伸ばしたタツキの手が空を切った。
晴の隣に青年が立って、重いバットを持ち上げていた。
「隣の調理台で料理をしていた秋長国の料理師、碧佑《へきゆう》です。左手が不自由なのですよね。手伝わせてください」
タツキは呆然と碧佑を眺めた。
「手柄を横取りしようなんて気は、今更ありません。ただ純粋に、貴方と一緒に料理がしたいです」
「どうして……」
碧佑が、照れた顔を逸らした。
「貴方に憧れて、料理師になりました。ホゥホゥ鳥の唐揚げを、食べるためだけに春待国に行きました。キジムラ食堂の料理は、どれも好きです」
思いもよらない言葉に、何も言えなかった。
「貴方が作った調味料を、僕の店でも使っています。お役に立てると思います」
じわりと、胸が熱くなった。
(俺が作った調味料が、隣の国でも使われてるのか)
しかも、同じ料理師が使ってくれている。
胸の熱さが昇って、目頭にまで沁みた。
「へへ……そっか。そいつぁ、心強い。よろしく頼むよ」
ごしっと目を拭って、タツキは笑った。
「そんじゃ、始めますかね」
「僕がお野菜、刻むよ」
「晴は野菜を刻むの、早いもんな。頼んだぜ」
晴が自分の包丁で玉ねぎを刻み始めた。
その玉ねぎを、碧佑が炒め始める。
「途中で爆弾ニンニクを一緒に炒めると香りが玉ねぎに閉じ込められて、ハンバーグを食べた時に香りが鼻に抜けるんだ」
「なるほど、あれには、こういう工夫が……タイミングは?」
「焦げ色が付く直前が良い」
「了解しました」
碧佑は料理師なだけあって、手際が良い。
「あの……」
後ろから声がかかって、振り返る。
他の料理師たちが立っていた。
「私たちも、何か手伝えること、ありますか?」
タツキは晴と顔を見合わせた。
笑顔で頷き合う。
「勿論、あるぜ。皆、俺を手伝ってくれ」
他の調理台を使いながら、一品ごとに分担して作り始めた。
それぞれの調理台を回って、タツキが指示を飛ばす。
「ホワイトソースは隠し味にチーズと、コメコンソメを使ってくれ」
タツキが作った調味料の一つだ。
食材の乗った台の片隅に、当然のように準備してあった。
きっと、蓮也の気遣いだろう。
「わかりました。量は?」
「小さじ一でいいよ」
「タツキさーん」
隣の台から声がかかった。
「ケチャップの使い方を教えてください」
「チキンライスは、ケチャップを入れすぎると味が濃くなるから、味を見ながら少しずつ入れるのがコツな」
それぞれの台を巡り、料理を教えながら、タツキの胸は高揚していた。
(料理は食べるだけじゃない。作る人間の心も丸く、一つにするんだな)
今この瞬間が、楽しい。
一人で料理をしているのが楽しかった。
晴が来て、もっと楽しくなった。
皆で作るのは、それとは違う楽しさだ。
じわりと滲んだ胸の奥の高揚が、大きく膨れて広がっていった。
(どんな料理を作ればいい? ここに在る食材で御宿石様の怒りを鎮める料理なんて)
どの食材も街で手に入る程度の一般的な食材だ。
(ガルガル猪もカラスうずらの卵も使い切ったぞ)
珍しい食材はもう手元にない。
「せめて、カラスうずらの肉を持ってくるんだったな」
こんなことになるとは思わないから、最低限の準備しかない。
晴がタツキの服を引いた。
「待ってろ、晴。今、考えているから……」
「キジムラ食堂を作ろう」
「何とかレシピを捻り出して……え?」
晴の言葉に、タツキは思考を止めた。
視線を下げる。晴がタツキを真剣に見上げていた。
「この食材を見た時に思ったんだ。食堂のご飯が作れるって」
「そりゃ、作れはするけどよ」
タツキは食材の山に目を向けた。
晴が言う通り、食堂のメニューなら一通り作れるだけの食材が揃っている。
「けど、それじゃ、あまりにも普通すぎる」
「普通じゃダメなの?」
晴が懸命にタツキの服を引っ張った。
「師匠が食べさせてくれた唐揚げ、美味しかった。街の皆だって、キジムラ食堂の料理が大好きだよ」
晴の言葉が、自然とタツキの心に沁みた。
「師匠の料理は、材料が珍しくなくたって、人を幸せにするよ。僕は師匠のご飯で幸せになったよ」
前回の豊穣祭が、タツキの頭を過った。
皆が喜ぶ料理をと考えて、タツキは珍しくもない唐揚げを作った。それがこの国では珍しく、神様にも受け入れられた。
「神様だって、美味しい料理で幸せになれるよ!」
晴が叫んだ。
タツキの中で、何かが弾けた。
(俺は、料理師として大事なことを忘れていたのかもしれねぇな)
自分で言った言葉が、頭を過った。
『美味いもんを食えば、人は心が丸くなるもんだ。美味いもんを作れれば、仲良くなれる』
自然と口端に笑みが上った。
「そうだ……そうだよな。美味いもん食えば、心が丸くなるもんな」
「なるよ。僕は、まん丸になった!」
タツキは晴を抱き上げた。
「ありがとう、晴。晴はやっぱり、最高の弟子だ」
「僕は師匠も、師匠のご飯も、大好きだよ」
晴を抱いたまま、改めて食材を眺める。
「ハンバーグ、ナポリタン、オムライス、グラタン……唐揚げも作れるな」
「全部作ろうよ」
タツキは晴と目を合わせた。
「それ、良いな。お子様ランチ……大人のお子様ランチプレートだ」
「全部一皿に載せるの? とっても豪華だね! いっぱいあって、いっぱい幸せだ」
晴と二人で笑い合う。
「そうと決まれば、食材を集めるぜ。晴、バットに入れてくれるか?」
「わかった」
指示しなくても、晴が必要な食材をどんどんバットに盛っていく。
山盛りになったバットを晴が重そうに持ち上げた。
「大丈夫か? 片手、手伝うぜ」
伸ばしたタツキの手が空を切った。
晴の隣に青年が立って、重いバットを持ち上げていた。
「隣の調理台で料理をしていた秋長国の料理師、碧佑《へきゆう》です。左手が不自由なのですよね。手伝わせてください」
タツキは呆然と碧佑を眺めた。
「手柄を横取りしようなんて気は、今更ありません。ただ純粋に、貴方と一緒に料理がしたいです」
「どうして……」
碧佑が、照れた顔を逸らした。
「貴方に憧れて、料理師になりました。ホゥホゥ鳥の唐揚げを、食べるためだけに春待国に行きました。キジムラ食堂の料理は、どれも好きです」
思いもよらない言葉に、何も言えなかった。
「貴方が作った調味料を、僕の店でも使っています。お役に立てると思います」
じわりと、胸が熱くなった。
(俺が作った調味料が、隣の国でも使われてるのか)
しかも、同じ料理師が使ってくれている。
胸の熱さが昇って、目頭にまで沁みた。
「へへ……そっか。そいつぁ、心強い。よろしく頼むよ」
ごしっと目を拭って、タツキは笑った。
「そんじゃ、始めますかね」
「僕がお野菜、刻むよ」
「晴は野菜を刻むの、早いもんな。頼んだぜ」
晴が自分の包丁で玉ねぎを刻み始めた。
その玉ねぎを、碧佑が炒め始める。
「途中で爆弾ニンニクを一緒に炒めると香りが玉ねぎに閉じ込められて、ハンバーグを食べた時に香りが鼻に抜けるんだ」
「なるほど、あれには、こういう工夫が……タイミングは?」
「焦げ色が付く直前が良い」
「了解しました」
碧佑は料理師なだけあって、手際が良い。
「あの……」
後ろから声がかかって、振り返る。
他の料理師たちが立っていた。
「私たちも、何か手伝えること、ありますか?」
タツキは晴と顔を見合わせた。
笑顔で頷き合う。
「勿論、あるぜ。皆、俺を手伝ってくれ」
他の調理台を使いながら、一品ごとに分担して作り始めた。
それぞれの調理台を回って、タツキが指示を飛ばす。
「ホワイトソースは隠し味にチーズと、コメコンソメを使ってくれ」
タツキが作った調味料の一つだ。
食材の乗った台の片隅に、当然のように準備してあった。
きっと、蓮也の気遣いだろう。
「わかりました。量は?」
「小さじ一でいいよ」
「タツキさーん」
隣の台から声がかかった。
「ケチャップの使い方を教えてください」
「チキンライスは、ケチャップを入れすぎると味が濃くなるから、味を見ながら少しずつ入れるのがコツな」
それぞれの台を巡り、料理を教えながら、タツキの胸は高揚していた。
(料理は食べるだけじゃない。作る人間の心も丸く、一つにするんだな)
今この瞬間が、楽しい。
一人で料理をしているのが楽しかった。
晴が来て、もっと楽しくなった。
皆で作るのは、それとは違う楽しさだ。
じわりと滲んだ胸の奥の高揚が、大きく膨れて広がっていった。



