契約結婚ですが、旦那様は私に触れられません 〜光と闇が紡いだ奇跡〜


「旦那様」
「…何のつもりだ」

楓を見送った後、二人きりになった客間で律の前に正座をすると三つ指ついて頭を下げた。
その光景を見て、息を飲みやっとの思いで声を出した律。

「今まで、お世話になりました。荷物はもう、まとめてあります。旦那様に助けて頂き、今日までとても充実しておりました」

ここまで言うと、ようやく重い頭を上げた。
しかし、目を合わせる事ができない。
涙が溢れそうになっているから。

(きっと私に何かあれば、旦那様はまた来て下さるーーけれど、それでは私は…ただ旦那様の負担にしかならない)

「勿論、最初に頂いていたお金の話は結構です。むしろ、今日までのお金をお返し致します。何年かかるか分かりませんが、かなら、ず…」

言い切る前に、視界が暗くなった。
律が立ち上がると、その影が澄を包むように落ちた。
かと思えば、しゃがんで澄の体を優しく抱きしめた。

「待て。勝手に話を進めるな」
「えっ…でも…」
「…でも?」

責めるでもなく、優しい声音で聞き返した。

「私はもう…旦那様のお役には立てません、から…」
「誰が決めたんだ、そんなこと」

澄は涙で滲む視界の中、律を見上げた。

「えっ…だって、私は…」

光の異能者ではなくなる。
つまり、律が求めていた人ではなくなる。
しかし、それを言葉として発すれば涙が止まらなくなりそうで、出なかった。