契約結婚ですが、旦那様は私に触れられません 〜光と闇が紡いだ奇跡〜


「ちょっと! 久遠の嫁が、誰に口を聞いているの!?」

頭上から聞こえる怒号。
額に血管を浮かび上がらせるほどに怒りを露わにしている女性ーー母親だ。

「出過ぎた真似をしてしまい、申し訳ありません。ですが、ご子息の行動を黙認すればこの場を設けてくださった西園寺様、ご用意下さった方々、さらには作物、畜産を丹精込めて作って下さった方に失礼かと思いまして」
「っ! 久遠の嫁が…! この場にいるのも忌々しい…!」

澄自身、使用人同然の扱いを受けていた。
その為、子どもの行為を黙認できずに話せば母親は、格下だと思っている澄に手を大きく振りかぶった。

「澄っ!」

危険を察知し、律が全身から黒い靄を放出させ、臨戦態勢に入った。
その瞬間、柔らかな白い光が律を包み込み、黒い靄を静かに押さえ込んだ。

二人の間へ、一人の男が静かに割って入った。

「ーー申し訳ない。今日は、久遠家の結婚祝い。強いては、澄さんを歓迎する会。さすがにこれは、歓迎が過ぎるのではありませんか。ご婦人」

片手は大きく振りかぶった女性の手首を掴み、もう片手は律に手のひらを向けて光を放出している男性。

「さ…西園寺様…! も、申し訳ありませんっ…」
「いえいえ。僕の方こそ、突然女性に触れたご無礼、お許しください」

女性にそう言って手を離した。
すぐに、子どもを連れて遠くへ駆けて行った。

澄は目の前で起こった事を、ただぼんやりと見ていた。