「…どうした、澄」
「あっ…えっと…申し訳ありません…。私、乗ったことがなくて…」
すんなりと馬車に乗る律が、いつまでも乗ろうとしない澄を不思議そうに見た。
緊張して乗れない事を察すると、すっと手を差し出した。
「ほら」
しかし、それに首を横に振って応えない澄。
「…そうだったな」
二人の間には、光の異能という壁があり触れられない。
幽界で触れられた事から、そのことが少し抜けていた。
手を引いて近くにいた使用人に澄の手伝いをするよう伝えた。
使用人は一瞬だけ律と澄を見比べた。
そして何かを察したように、静かに澄へ手を差し伸べた。
澄が乗ると、馬車は動き出した。
「…申し訳ありません」
優しさに応えられず、俯いて謝った。
「澄が悪いんじゃない。だから、気にするな」
「…はい」
そう言われても、澄は口を閉ざして馬車の中は、しばらく静かな時間が流れた。
少しすると、馬車が止まって二人は降りた。
「わぁ…!」
やって来たのは、綺麗に整えられた洋風の庭。
芝生が生い茂っており、花や木も植えられた華やかな場所。
その中央で、立食パーティーが行われている。
皆、笑顔で賑やかに話している。
しかしーー。
「久遠様、お越し頂きました」
使用人が皆に聞こえる声で言うと、先ほどまで響いていた笑い声は、まるで最初から存在しなかったかのように消えた。

